『もののけ姫』を観た多くの人が感じる疑問の一つが「あんなに巨大なイノシシって本当に存在するの?」ということではないでしょうか。特に乙事主(おっことぬし)の圧倒的な存在感や、冒頭でアシタカを呪いにかけたナゴの守の巨大さを見ると、まるでファンタジーの世界の産物のように感じられます。
しかし、実際のところはどうなのでしょうか?この記事では、現実に存在する巨大イノシシの記録から、宮崎駿監督が参考にした可能性のあるリアルな動物たちまで、イノシシに関する驚きの真実を詳しく解説していきます。
もののけ姫のイノシシは実在する巨大動物がモデル
現実世界の驚異的な巨大イノシシ記録
まず結論から申し上げると、『もののけ姫』に登場するような巨大イノシシは、現実世界にも存在します。その証拠として、世界各地で記録された驚異的なサイズのイノシシを見てみましょう。
ロシアでは体重535kg、肩の高さ1.7mという超巨大イノシシが捕獲されており、これはもののけ姫のサンの身長(155〜158センチ程度)よりも肩高が高い計算になります。また、アメリカのジョージア州では体長約4m、体重450kg、牙の長さ22cmという巨大イノシシが農園で捕獲されており、現地では「ホグジラ(ホッグ+ゴジラの造語)」と呼ばれていたというほどです。
日本国内でも驚くべき記録があります。鳥取県江府町では体重200kg超、体長182センチ、胴回り141センチの巨大イノシシが捕獲され、その外見から「アニメ映画に出てくる山の神様のよう」「もののけ姫の乙事主を連想させる」との声が上がるほどでした。
捕獲地 | 体重 | 体長/肩高 | 特徴 |
---|---|---|---|
ロシア | 535kg | 肩高1.7m | 超巨大イノシシ |
アメリカ・ジョージア州 | 450kg | 約4m | 牙の長さ22cm |
日本・鳥取県 | 200kg超 | 182cm | 胴回り141cm |
種族的に最大のイノシシたち
イノシシの種族で言うとアフリカのモリイノシシが種族的には最大で、現在は乱獲により数が減っているとされています。興味深いことに、もののけ姫のイノシシっぽいのが、やはりアフリカの猪でアカカワイノシシで、上野動物園にもいたという情報もあります。
このことから、宮崎駿監督が作品制作の際に、実在する大型イノシシ種を参考にしていた可能性が高いことがわかります。
一般的なイノシシのサイズと能力
日本に生息するイノシシの基本データ
日本のイノシシ(ニホンイノシシ)の成獣は、体長90〜200cm、尾長30〜40cm、体重50〜200kg、体毛は茶褐色〜黒褐色で剛毛を持ち、下顎には大きな牙を持つとされています。
一般的には50〜200kgという幅広い体重範囲を持っていますが、上記の海外や日本の巨大イノシシの例を見ると、この範囲を大きく超える個体が実際に存在することがわかります。
イノシシの驚異的な身体能力
イノシシは見かけによらずとても運動神経の良い動物で、走る速度は約50kmと車並み、跳躍力は成獣になると110cmの柵を助走なしで超えられる程あり、押し上げる力も非常に強く60kg位であれば簡単に押し退ける事が出来るという驚異的な身体能力を持っています。
さらにイノシシは嗅覚が優れていて人間の数1000倍とも言われているという能力も持ち合わせており、これらの特徴は『もののけ姫』の描写とも一致しています。
古代・神話時代の巨大イノシシ伝説
日本の神話に登場する猪神
「このままではわしらは、ただの肉として人間に狩られるようになるだろう…」という乙事主のセリフから、古代は猪が大きかったという印象を受けるという声もあります。実際に、古代の神話や伝説には巨大な猪が数多く登場しています。
物語では、イノシシ族が人間との戦いに敗北した後、もはや「敬い畏れる神」ではなく、名実ともに「食べるための肉」として扱われていくという変化が描かれていることから、この作品が単なるファンタジーではなく、人間と自然の関係性の変化を深く描いた作品であることがわかります。
世界各地の巨大猪伝説
古代の猪が大きかったという疑問を調べてみると、ギリシア神話にも巨大な猪の記録があるとされており、世界各地で巨大イノシシの伝説や記録が残されています。
これらの伝説が単なる作り話なのか、それとも実際に存在した巨大個体の記憶なのかは定かではありませんが、現代でも500kg超えの巨大イノシシが実際に捕獲されていることを考えると、古代にもそのような個体が存在した可能性は十分考えられます。
制作の裏話と動物監修
宮崎駿監督のリアリズムへのこだわり
宮崎駿監督は西洋の知識に強いから、巨大イノシシの存在を知った上であのサイズで描いたと考えられ、作品は希少生物をいじめまくる人間の身勝手をものすごくリアルに描いた作品で、おとぎ話フィルターなどほとんど無いという指摘もあります。
実際に、イノシシは元来、体の表面に付いているダニや寄生虫を落とすために泥を浴びる習性があり、その泥を塗る場所を沼田場(ぬたば)と言い、日本では昔から沼田場には山の神がいると考えられてきたという実際の生態に基づいた描写も作品中に盛り込まれています。
泥塗りの儀式の文化的背景
映画中でイノシシ達が泥を塗り合うシーンについても、沖縄の泥塗り祭がモデルと考えられ、全身に泥とつる草をまとった「神様」が住民らを追い回して泥を塗り、無病息災を祈る奇祭という実際の文化的背景があることが分かっています。
このように、宮崎駿監督は単にファンタジーとしてイノシシを描くのではなく、実在の動物の生態や文化的背景を詳細に研究した上で作品に反映させていることが伺えます。
SNSや話題になった巨大イノシシの実例
実際にSNSでも巨大イノシシの話題は度々登場しています:
「この大きさ、現実にいるんだ…」「ゲームやアニメに出てくるサイズ」
引用:まいどなニュース
「もののけ姫」に登場する、巨大なイノシシの神「乙事主」を連想させる
引用:まいどなニュース
「鼻を下に向けていたらもうクマにしか見えんかった。いや、この辺りに出るクマよりも大きかった」
引用:まいどなニュース
「アニメ映画に出てくる山の神様のよう」
引用:山陰中央新報
「まるで巨大な建造物のような威圧感」
引用:grape
これらの反応を見ると、実際に巨大イノシシを目撃した人々が『もののけ姫』を連想するほど、作品の描写がリアルであったことがよくわかります。
現代における人間とイノシシの関係
農業被害と駆除の現実
現在の日本では、イノシシやシカなどは数十億という莫大な農業損害を出しており、その数は増え続けている一方で、ハンターは減る一方という状況にあります。
イノシシは大変に匂いがきついため、近くを通るだけで農作物が売り物にならなくなり、対処法としてはイノシシの侵入経路を電気柵、鉄柵などで塞ぐなどの方法があるとされています。
保護と駆除のジレンマ
野生のイノシシを根絶やしにすべきかという問いに対しては「No」が答えで、生態系への影響など様々な観点から、根絶やしは選択すべき対策ではないとされています。
この現代の状況は、まさに『もののけ姫』で描かれた「人間と自然の共存」という永続的なテーマそのものと言えるでしょう。乙事主が危惧していた「ただの肉として人間に狩られるようになる」という予言が、現実のものになってしまったという側面もあります。
イノシシの知能と学習能力
高い学習能力と記憶力
イノシシはとても賢く、群れの中の1匹が人間の仕掛けを突破すると、他個体も真似して突破するなどの模範学習能力があり、どこに美味しいものがあるか、どこに罠があったかなどを覚える、優れた記憶力で私たち人間を困らせているという高い知能を持っています。
この知能の高さも、『もののけ姫』でイノシシ達が人語を解し、複雑な戦略を立てて人間と戦う描写の説得力を高めています。乙事主は目が悪いにも関わらず、優れた嗅覚を持っており、人間を含め動物は感情によって特定の匂い物質を発散するため、狩人の恐怖の感情を嗅ぎ付けることができるという描写も、実際のイノシシの能力に基づいています。
臆病で慎重な性格
意外なことに、イノシシは人間を襲う事件もあり獰猛なイメージもあるが、どちらかというと大人しく、臆病で注意深い性格をしているとされています。
これは作品中の乙事主の慎重で思慮深い性格描写とも一致しており、宮崎駿監督が実際のイノシシの性格も詳細に研究していたことが伺えます。
イノシシと人間の歴史的関係
日本人とイノシシの古い関係
日本人とイノシシの関係は稲作よりも古く、農業の普及とともにイノシシによる被害も増加し、猪垣に見られるように日本人は長い間イノシシの被害に悩まされてきたが、近年では農業が続けられないほど深刻な状況になっている場合もあるという長い歴史があります。
イノシシは田畑を荒らす害獣である一方で、古来、多産や豊穣の象徴として祭られていたという両面性を持っており、この複雑な関係性が『もののけ姫』の物語の深層にも流れています。
神格化される巨大イノシシ
大きな動物は山の主として崇めるヤオロズの神信仰の日本では、害獣駆除以外の狩猟は文化として受け入れられにくく、自然や動物に対する敬意があるという日本独特の自然観が存在します。
実際に、福岡県筑前町では高さ約5メートル、全長約9メートルという巨大イノシシの案山子が合併10周年を迎えた町の五穀豊穣を祈願するために制作され、「おっことぬし」を彷彿とさせると話題になったという現代の事例もあります。
作品に込められた環境メッセージ
現実的な環境問題への警鐘
『もののけ姫』のイノシシ描写は、単なるファンタジーではなく、現実の環境問題に対する深い洞察に基づいています。作品には大きく分けて「人間たちの世界」「もののけ達の世界」「その2つの世界を内包する自然界」という3つの世界があり、それぞれの間での対立や抗争が描かれているという構造になっています。
現実世界においても、特に山間部や丘陵地では、イノシシが農作物に深刻な被害をもたらし、大きな問題となっているという状況が続いており、作品の持つ現代性が際立ちます。
生物多様性保護の重要性
イノシシによる農林業被害を効果的に防止するには、イノシシの生態や行動を詳細に理解し、共存・共生のための包括的な対策を考案する必要があるという現代の専門家の見解は、まさに『もののけ姫』で提示された「共存の道」そのものです。
作品中で乙事主が最期に見せた穏やかな表情は、シシ神の池で命を吸い取られた際、一瞬苦しそうに見えたもののとても穏やかな顔で息絶えたとされており、これは自然との調和を取り戻した瞬間として描かれています。
まとめ
『もののけ姫』に登場する巨大イノシシは、決して荒唐無稽なファンタジーの産物ではありません。世界各地で実際に捕獲された500kg超の巨大イノシシの記録や、古代から続く人間とイノシシの複雑な関係性、そして現代の農業被害という現実的な問題まで、すべてが作品の土台となっています。
宮崎駿監督の徹底したリサーチと現実への深い洞察により、ファンタジーでありながらも現実味のある説得力を持った作品として完成したのです。乙事主やナゴの守といったキャラクターたちは、単なる怪物ではなく、失われゆく自然の象徴として、そして人間との共存の可能性を模索する存在として描かれているのです。
現代においても巨大イノシシが実際に発見され続けていることは、『もののけ姫』の世界が決して遠い昔話ではなく、私たちの身近に存在し続けている現実であることを物語っています。私たちは今こそ、作品が投げかける「人間と自然の共存」という永遠のテーマについて、真剣に考える必要があるのかもしれません。