スタジオジブリ映画「もののけ姫」の壮大な音楽世界に魅力を感じているあなた、その音楽を生み出した作曲者・久石譲について、もっと深く知りたいと思いませんか?この記事では、久石譲という天才作曲家の全貌と、「もののけ姫」での音楽制作に込められた想いを詳しく解説します。
久石譲とは?もののけ姫の音楽を生み出した作曲家の正体
久石譲(ひさいし じょう、本名:藤澤 守、1950年12月6日生まれ)は、日本を代表する作曲家、編曲家、指揮者、ピアニストです。長野県中野市出身で、国立音楽大学在学中よりミニマル・ミュージックに興味を持ち、現代音楽の作曲家として出発しました。
1981年に初のプロデュースアルバム「MKWAJU」を発表、翌年に1stアルバム「INFORMATION」を発表し、ソロアーティストとして活動を開始。前述のアルバム『INFORMATION』を制作したレコード会社から声を掛けられた久石氏は、スタジオジブリ作品『風の谷のナウシカ』のイメージアルバム制作に取り組みました。これが宮崎駿監督との長年にわたる音楽コラボレーションの始まりとなったのです。
もののけ姫における久石譲の作曲手法と音楽制作秘話
オーケストラ重視への大転換
「もののけ姫 サウンドトラック」は、久石譲さんのジブリ音楽、そして久石さんの音楽の変遷を考えるうえで、大きな転機・ターニングポイントとなった作品です。
実は、クラシック演奏を専門とする、プロ・オーケストラを使って、サントラ演奏が収録された久石さんのジブリ音楽は、この『もののけ姫』が初めてで、それ以降のジブリ作品のサントラでは、同様に、クラシックのプロ・オーケストラが演奏を必ず担当するスタイルとなりました。
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のフルオーケストラによる、オリジナルサントラ。映画「もののけ姫」の曲を完全再現したアルバムとなっています。
制作の困難さと情熱
「こんなに全身全霊をかけて理解しようとしていて、まだどこか判っていないような感覚がつきまとう仕事というのは初めてですよ。」と久石譲自身が語るほど、「もののけ姫」の音楽制作は困難を極めました。
1997年「もののけ姫」では、わずか1分半の曲に2週間を費やすほど音づくりに悩むことがあったんだそうです。そしてこの「もののけ姫」の製作段階から、宮崎駿監督の作品に対する熱意に圧倒され、”もう逃げ道はない 本当に正面から取り組んだ”と久石譲は語っています。
アシタカの旅立ちシーン制作秘話
本編前半でアシタカがタタリ神の痣を負い、村を旅立つことになるシーン。その旅立ちの音楽は、当然、アシタカの複雑な心境を表現しなければいけない。宮崎駿監督は久石譲に、そう依頼したそうです。
そんな鈴木プロデューサーの悩みを打ち明けると、久石譲は、二曲を用意したそうです。「そしてふたつの曲が出来あがった。いずれ劣らぬ名曲だった。さて、どっちがいいだろうか。どちらにするか決めるとき、久石譲さんがぼくに目で合図を送った。宮さんは、迷うことなく勇壮さを選んだ。」
久石譲の音楽家としての軌跡とキャリア
現代音楽からの出発
国立音楽大学に在学中から、現代音楽の作曲家として活動をスタートさせていた久石譲さん。その名が広く世間に知られるようになったのは、宮崎駿監督のアニメ大作「風の谷のナウシカ」の音楽を手掛けたことがきっかけでした。
大学を卒業するころからテレビの音楽制作やアレンジの仕事を手掛け、「ポプスの世界に行った方が自分のやりたいことができる」と感じていた久石氏。当時、日本の現代音楽のあり方に疑問を抱いていたこともあり、作曲家としての活動をポップスのフィールドに移す決意をします。
映画音楽の巨匠への道
「風の谷のナウシカ」(84)を皮切りに宮崎駿監督の長編アニメの音楽家として活躍し、「風立ちぬ」(13)まで10作品の音楽を手がけました。また、「HANA-BI」(98)をはじめ北野武監督作品の音楽も多数担当しています。
年代 | 主要作品・活動 |
---|---|
1950年 | 長野県中野市で生まれる |
1981年 | 「MKWAJU」発表 |
1982年 | 1stアルバム「INFORMATION」発表 |
1984年 | 「風の谷のナウシカ」音楽担当 |
1997年 | 「もののけ姫」音楽担当(転機作品) |
2009年 | 紫綬褒章受賞 |
2020年 | 新日本フィルハーモニー交響楽団Music Partner就任 |
指揮者としての活動
2020年、新日本フィルハーモニー交響楽団のComposer in Residence and Music Partnerに就任。2021年4月、日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任。2017年から「Joe Hisaishi Symphonic Concert:Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のワールドツアーを開催するなど、世界的な指揮者としても活躍しています。
もののけ姫の音楽が持つ特殊性とジブリ音楽での位置づけ
音楽制作における戦略的アプローチ
久石「実は、映画に一番近い構造を持っているのは音楽なんです。どちらも、時間の軸の上に作る建築物である、と。似ているために、僕らはどうしてもすべてを音で表現したくなっちゃって、つけすぎてしまうという危険があるんです」と語っています。
久石:「そう、今回のサントラでひとつ言えるのが、戦いのシーンなんかは極力音楽を控えめにしたということです。地味めなサウンドにね。音楽家ってどうしても戦いのシーンなんかになると、自分のワザを駆使して、ジャーンって効果音と張り合ってやってしまいがちなんですけど、そういう誘惑は一切断ち切って、むしろ戦いが終わってからの主人公の気持ちなどのほうに音楽をつけることに集中しました」。
楽曲構成の特徴
制作に3年の月日を費やした大作で、音楽も前作まではポップでやさしいサウンドがメインだったが、壮大なシンフォニーが展開する内容となりました。
- 「アシタカせっ記」- フルオーケストラによる重厚なオープニング
- 「タタリ神」- 緊迫感あふれる不安な旋律
- 「アシタカとサン」- 静と動が絡み合うドラマチックな楽曲
- 「もののけ姫」(ヴォーカル)- 米良美一による主題歌
- 「死と生のアダージョ」- 透明感のある高音ストリングス中心の楽曲
久石譲の音楽哲学と創作への想い
ジャンルを超えた音楽家として
「私はジャンルにこだわる必要はないと思うんです。ジャンルなんて洋服と同じようなものじゃないですか。着替えるのは簡単、要はそれを着こなす自分自身のスタイルでしょう。衣装は変わっても自分だけのメロディラインは不変です。」と、こともなげに話します。
久石譲の楽曲に共通する魅力は、なんと言っても『メロディーラインの美しさ』でしょう。シンプルなのに不思議と耳に残るメロディーは、子供から大人までさまざまな年代に親しまれています。
もののけ姫制作への想い
久石「そういう精神的なことというのは、セリフでいちいち説明するものじゃないでしょう。”私はこんなに大変なんです”なんて言えない。でも、そこに音楽が流れることによって、その人物の複雑な気持ちというものが表現できるんですよ。そういう意味でいうと、今回の音楽は、『もののけ姫』に託した宮崎さんの思いに寄って作っているという感じなんでしょうね。だから今までの作品とはアプローチが変わったという気がします」。
SNSやWEBで話題になっている久石譲の評価
「もののけ姫のサントラはジブリ音楽の中でも特に壮大で重厚。久石譲の転機となった作品として音楽史的にも重要な位置を占めている」
引用:https://www.ashitatsu.com/column/joehisaishi/もののけ姫-サウンドトラック/
「東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団による演奏は圧巻。プロオーケストラを使った初のジブリサントラとして記念すべき作品」
引用:https://www.tkma.co.jp/jpop_release_detail/hisaishi.html?rid=3545
「久石譲が正面から取り組んだ結果生まれた音楽は、宮崎駿監督の熱意と完全にシンクロしている。音楽制作における真摯な姿勢が伝わる」
これらの評価からも分かるように、もののけ姫での久石譲の音楽は単なる映画音楽を超えた芸術作品として高く評価されています。
久石譲の現在の活動と今後への展望
2023年6月、ドイツ・グラモフォンからリリースされた最初のCD「A Symphonic Celebration」は 米国ビルボード・クラシック・アルバム&クラシック・クロスオーバー・アルバム・チャート2部門で1位を獲得しました。
24年4月よりロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のComposer-in-Association。25年4月日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任予定と、さらなる飛躍を続けています。
本格的なオーケストラ曲を書くことになった本作品は、久石譲の音楽活動・作曲活動において大転換点と言われています。フルオーケストラによる作品がこれ以降増えていくことになります。同時に作曲に際して、クラシックのスコアを改めて学びだしたきっかけであり、後に指揮活動、そしてクラシック音楽のコンサート活動などへと発展していきます。
まとめ:もののけ姫が示した久石譲の音楽家としての真価
久石譲という作曲家にとって「もののけ姫」は、単なる映画音楽制作を超えた人生の転機となる作品でした。「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」を経て、この「もののけ姫」の音楽は、作曲家としてのひとつの転換期だったという人もいるからです。
現代音楽からスタートし、映画音楽の世界で才能を開花させ、そして再びクラシック音楽の世界へと回帰していく久石譲の音楽人生において、「もののけ姫」はまさに重要な分水嶺となったのです。
宮崎駿監督の16年間の構想と3年間の制作期間に込められた想いを、久石譲は音楽を通じて見事に表現しました。その音楽は今でも多くの人々に愛され続け、久石譲の代表作の一つとして語り継がれています。
「もののけ姫」の音楽は、久石譲という音楽家の真髄を知る上で欠かせない作品なのです。