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もののけ姫のタタラ場とは?エボシ御前と製鉄技術の謎を解説!

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もののけ姫のタタラ場とは?エボシ御前と製鉄技術の謎を解説!

「もののけ姫」を観て、タタラ場という不思議な集落に興味を持たれた方は多いでしょう。エボシ御前が率いるこの場所は、単なる製鉄所ではなく、宮崎駿監督が現代社会に向けて込めた深いメッセージが隠された重要な舞台です。本記事では、タタラ場の真の姿と、そこに隠された製鉄技術の謎、エボシ御前の壮絶な過去まで、徹底的に解説していきます。

タタラ場の正体-社会的弱者が集う理想郷

「これら山内のすべてを取り仕切るのが『鉄師』で、広大な山林を持ち、山林から採れる木炭や砂鉄を使って職人たちに鉄を作らせ、さらに彼らの生活全般の面倒をみました。ちょっとした小領主といった存在で、『もののけ姫』におけるエボシ御前はまさに鉄師と言えます」とある通り、タタラ場は単なる工場ではなく、一つの自治共同体でした。

映画で描かれるタタラ場は、「身売りされた娘達や病人(おそらくハンセン病患者)、その他はみ出し者といった行き場の無い社会的弱者達を差別することなく積極的に保護し、教育と職を与え、人間らしい生活が送れるように講じる」エボシ御前によって築かれた理想郷でした。

特筆すべきは、「本来タタラ場は女人禁制であるにもかかわらず、エボシは身売りされた娘達を買い取り、ここで仕事を与えています。つまりこのタタラ場は、エボシが人間社会で居場所のなくなった人々を受け入れている国なのです」という点です。これは当時の常識を覆す革新的な取り組みでした。

ハンセン病患者への配慮が示す深いメッセージ

「宮崎駿監督は2016年に登壇した講演会で、『実際にハンセン病らしき人を描きました』と語っています」。包帯を巻いた人々の正体について、監督は「もののけ姫という映画を作りながら、はっきり”業病(ごうびょう:悪業の報いとしてかかる難病)”と言われた病を患いながら、ちゃんと生きようとした人たちのことを描かなければいけないと思ったんです」と明言しています。

エボシ御前は彼らにも差別することなく石火矢づくりという重要な仕事を与え、「エボシ御前は彼らの体を拭き、包帯を替え、さらには石火矢づくりという仕事を与えていました。それが彼らにとっていかに人間としての尊厳を与えた」のです。

たたら製鉄の技術的側面-日本古来の製鉄法

たたら製鉄の仕組みと過程

「『たたら(蹈鞴、踏鞴)』とは、製鉄を行う段階で使われる、風を送る装置の名称です。たたら製鉄に欠かせない高温の炎を燃やすため炉に空気を送る機構を『ふいご(鞴)』といい、そのなかでも人力で板を踏むことで動かすものを『たたら』といいます」。

映画で女性たちが懸命に踏んでいたあの装置こそが、製鉄の心臓部でした。「『たたら製鉄』では、炉に砂鉄(磁鉄鉱という鉱物の粒。成分は酸化鉄)と木炭を交互に入れる。一度火を入れると、三日間休みなく作業が続けられる」という過酷な工程でした。

「この作業を彼女たちは4日5晩続けます。サンと山犬たちにたたら場が襲われたとき、トキが『騒ぐんじゃない。休まず踏みな。火を落とすと取り返しがつかないよ』と言いますが、これもいったん操業を始めたら終わるまで火を燃やしつづけなければ十分な量の鉄を作れないからです」。

番子(ばんこ)の重労働と交代制

「番子(ばんこ)と呼ばれたこの人たちの仕事は、約70時間の操業の間、片時も休まずに炉内に風を送り続けること。ちなみに番子は3人1組で、1時間踏んで2時間休憩という交代作業を行なったそうで。これが『かわりばんこ』という言葉の起源になったとか!」という語源まで残しているのは驚きです。

「ふつう男性が行う番子の仕事をエボシ御前のたたらでは女性が行っています。エボシ御前のたたら場で暮らす女性たちは、皆はっきりものを言う人たちばかりですが、男性でもつらい重労働を行っているという自負が、彼女たちをそんな性格にしているのかもしれません」という解釈もあります。

エボシ御前の壮絶な過去と立烏帽子の伝説

人身売買から海賊の妻へ

エボシ御前には映画では描かれなかった壮絶な過去設定があります。宮崎駿監督は「海外に売られて、中国人の倭寇の大親分の妻になって、腕を磨いて、あげく男を殺して財宝を奪って、戻ってきた女とか」と語っています。

「エボシ御前は頭目の妻になった後、次第に頭角を表します。そして最後には、夫である頭目を殺し、金品と石火矢の技術を手に入れて日本に持ち込んだそうです」。この経験が、彼女の強さと社会的弱者への深い理解を育んだのです。

立烏帽子(鈴鹿御前)というモデル

「宮崎駿監督の著書『折り返し点』での歴史学者・網野善彦氏との対談によると、エボシ御前には『立烏帽子』というモデルが存在するそうです。立烏帽子とは、伝説上に登場する絶世の美女のことで、『鈴鹿御前』という呼び名でも知られています」。

立烏帽子は「元々は日本を魔の国とするため遣わされたものの、自らの討伐に訪れた田村丸将軍に一目ぼれしてしまいす。改心した立烏帽子は田村丸将軍と結婚し、子供も出産。そしてその後は田村丸将軍と共に悪路王といった鬼たちを鎮めたのでした」という伝説があります。

実在のタタラ場-菅谷たたら山内

現存する唯一の高殿

「現存するのは島根県雲南市吉田町にある『菅谷(すがや)たたら』のみで、『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルも、この菅谷たたらと言われています」。

「『山内(さんない)』とは、たたら製鉄が行われた施設とそこで働く人々の居住区が一体的に配置されていた集落の総称。ここ菅谷たたら山内は、先述の田部家における中心的なたたらで、大正10年(1921)までの130年間稼働。昭和42年(1967年)には、国の重要有形民俗文化財に指定されています」。

山内の社会システム

「たたら製鉄者たちの集落は『山内』と呼ばれ、人口は100~200人ほどあり、山内だけで通用する銭札も発行されていました」。これは完全に自治的な共同体だったことを示しています。

「一代のすべてを取り仕切る長は『村下(むらげ)』と呼ばれ、その仕事は代々、秘伝として受け継がれてきたと言う。炉を作るところから、砂鉄を入れるタイミングや量、木炭を入れるタイミングや量。どうすれば良い鉧(けら)が取り出せるか。マニュアルなどはない」という高度な技術体系が存在していました。

役職 役割 特徴
鉄師 経営者・領主 広大な山林を所有、全体統括
村下 技術責任者 製鉄技術の秘伝を継承
番子 送風担当 3交代制でふいごを操作
炭焼き 木炭製造 燃料の供給を担当
牛飼い 運搬業 製品・原料の輸送

環境破壊と持続可能性の課題

自然破壊の実態

「たたら製鉄では、大量の砂鉄と木炭を必要とします。操業が最も盛んな近世末期には1回の操業で砂鉄採取用に1山が大きく削られ、木炭用に1山の木々が丸裸にされました。合わせて2つの山が大きく姿を変えられ、これが1年に数10回行われていました」。

この環境への影響は深刻で、「人間による自然の大破壊に怒ったナゴの守が多くの猪と共に山内を襲い、それを、石火矢衆を連れたエボシ御前が返り討ちにしたのです」という物語の根幹部分にも反映されています。

持続可能な取り組み

しかし実際の奥出雲では、「実際の奥出雲のたたら製鉄では、過伐採・過採取による災害を防ぐため30年周期の輪伐によって持続可能な産業に努めていたとも伝えられています。さながら『もののけ姫』のテーマと言って過言ではない『死』と『生』の繰り返しを体現しているのです」という配慮もなされていました。

現代的解釈とメッセージ

包摂的コミュニティの理想

「もののけ姫で描かれた『たたら場』には現代的なテーマを投影した『再構築された理想郷』としての意味合いがあったのではないかと考えています。エボシ御前のタタラ場は、女性がリーダーシップを発揮し、社会的弱者も排除されずに役割を持つ『包摂』的なコミュニティ」として描かれています。

この設定は現代社会が直面するジェンダー問題や多様性への配慮といった課題に対する、宮崎監督なりの解答の一つでもありました。

「生きろ」というメッセージの真意

「『もののけ姫』は『生きろ。』というストレートなキャッチコピーでも有名です。このキャッチコピーは、著名なコピーライターである糸井重里が作りました。劇中でアシタカが発した名言『生きろ、そなたは美しい』の『生きろ』でもあるこのキャッチコピーには、『社会からはみ出して自分に生きる価値がないと感じたとしても、それでも生きろ』と言う力強いメッセージが込められています」。

アシタカがタタラ場に残った理由

物語の終盤で、アシタカがタタラ場に残る選択をした理由について、多くの考察がなされています。「そんな場所を見つけたアシタカ。実は彼自身、タタリ神の呪いを受けて村を追い出された居場所のない青年です。宮崎駿監督の企画書などを収録した本『折り返し点―1997~2008』でも、”差別的に村から追いやられている”と表現されています」。

「たたら場は、理不尽な人間社会で差別された人たちを『人』として扱い(女たちも売買されている時点で『モノ』扱いされていました)、仕事を与え、尊厳を持って生きる場所を提供しているいわば社会のセーフティネットだったのです」。アシタカにとって、タタラ場こそが真の居場所だったのです。

SNSでの反響と現代的評価

最近のSNSでは、エボシ御前のリーダーシップやタタラ場の共同体のあり方について、現代の働き方やダイバーシティの観点から再評価する声が多く見られます。

「エボシ御前のタタラ場運営を見ていると、現代の理想的な組織運営のヒントが詰まっている。女性の活躍推進、障害者雇用、多様な働き方の実現…全てが25年も前の作品に描かれているのが驚き」

「ハンセン病患者を差別せずに重要な仕事を任せるエボシ御前の姿勢は、現代の共生社会の理想形。宮崎監督の先見性がすごい」

「タタラ場の女性たちの『夜っぴいてたたらを踏んでるんだ』という台詞が頭から離れない。厳しい労働環境でも誇りを持って働く姿に勇気をもらう」

こうした現代的な解釈により、「もののけ姫」は公開から25年以上経った今でも新たな発見と感動を与え続けています。

まとめ

「もののけ姫」のタタラ場は、単なる製鉄所ではなく、宮崎駿監督が現代社会に向けて発した壮大なメッセージの結晶でした。エボシ御前という複雑で魅力的なキャラクターを通じて描かれた社会的包摂の理想、実在のたたら製鉄技術の詳細な再現、そして環境と人間の関係性への深い洞察。

これらすべてが組み合わさって、時代を超えて愛され続ける作品の礎となっているのです。タタラ場で生まれた鉄が武器にも農具にもなるように、この作品も見る人それぞれに異なる気づきと感動をもたらす、まさに「生きた」作品なのです。

社会的弱者への配慮、持続可能な発展、多様性の尊重といった現代的課題に対する示唆に富んだこの作品を、改めて深く味わってみてはいかがでしょうか。エボシ御前が目指した「みんながはじめからやり直し、いい村を作ろう」という希望は、現代の私たちにとっても決して色あせることのない普遍的なメッセージなのです。

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