「もののけ姫」を見ていると、一体この物語はいつの時代の話なんだろう?と疑問に思ったことはありませんか?アシタカの村は縄文時代のような竪穴式住居があるのに、タタラ場では鉄砲を製造している…この複雑な時代設定こそが、宮崎駿監督が込めた深いメッセージの核心なのです。
この記事では、もののけ姫の時代背景について、歴史的証拠と共に徹底的に解説していきます。なぜ宮崎監督は室町時代を選んだのか、そしてエミシの村がどのような歴史的意味を持つのかまで、マニアックな考察をお届けします。
もののけ姫の時代設定:室町時代後期という結論
『もののけ姫』の時代設定には「室町時代である」と公式の答えが存在します。室町時代は1336年~1573年までの257年間をさしますが、作中でエボシ御前が石火矢について「明国のものは重すぎる」と発言しているため、明が建国した1368年以降、応仁の乱を経て鉄砲伝来までの1543年を舞台とする説が有力なようです。
より具体的には、物語冒頭でのエミシ村のおばさまのセリフに「大和との戦に破れてこの地に潜んでから五百十余年」というセリフがありました。大和というのは近畿地方の政権、そして蝦夷では関東や東北の人々のことを指すそうです。この二つの間で戦いがあった年代を考えると、『もののけ姫』の舞台は1570年ごろの室町時代ではないかと予測ができます。
先にも引用した台詞「大和との戦に敗れ五百十四年」というのがキーです。大和朝廷と蝦夷との大きな合戦は多くありますが、ここでは前九年の役(1051-1062)、後三年の役(1083-1087)を指すものと仮定します。そうするとそこから500年経過しているとすると多少のタイムラグはあるかもしれませんが、15、16世紀だと仮定できます。
宮崎駿監督が室町時代を選んだ理由
混沌とした過渡期への着目
この作品が舞台とする室町期は混乱と流動が日常の世界であった。南北朝からつづく下剋上、バサラの気風、悪行横行、新しい芸術の混沌の中から、今日の日本が形成されていく時代である。
宮崎監督は室町時代について、「室町時代の前、鎌倉時代は、人が主義主張で生きていた。もっと壮絶な人々が生きていた時代です。それが室町時代になると、得なほう、都合のいい方につこうということで動くようになる(笑)。そういう意味で室町というのは、ちょっとおもしろい時代だなと思ったもんですから。それに、女たちが自由でかっこいいんです。」と語っています。
日明貿易による社会変化
室町時代という時代背景は、中国で元王朝が滅び、明王朝が誕生した時代と重なります。この時期には、明王朝が日本との交易を望み、日本には明から様々な物品や思想、文化が流れ込んできました。新しいものが次々と日本にもたらされ、世の中が変化していったのです。
特に重要なのが貨幣経済の発達です。この時代、日本は国内で貨幣を鋳造しておらず、外国の貨幣、特に永楽通宝などが重要で、日明貿易によって大量に流通しました。結果として、この貨幣の流通は一般人にも貨幣経済を浸透させ、利益という概念を具現化しました。洪武通宝(こうぶつうほう)、永楽通宝(えいらくつうほう)などの銅銭が大量に輸入され、貨幣が鋳造されていなかった当時の日本で通貨として広く利用されるようになります。
作中でアシタカが砂金と米の物々交換を申し込むシーンは、まさにこの時代背景を反映しています。アシタカが砂金と米の物々交換を申し込むシーンでは、彼が貨幣経済に馴染みがないエミシの一族の出身であることが描かれています。この描写は、室町時代に貨幣経済が進んでいたことを反映しており、辺境の地のエミシの一族とのギャップを巧みに表現しています。
エミシ族の歴史的背景と500年の意味
エミシとは何者だったのか
その昔、東北地方には、蝦夷(エミシ)と呼ばれる朝廷が存在していた。大和地方を中心とするヤマト朝廷に統一され、その存在は歴史から抹消されてしまっている。蝦夷は、古代から中世の東北地方から北海道にかけて存在した朝廷である。大和朝廷の豪族たちを中心として統一国家となった大和朝廷が今の日本国家の祖先と言われているが、彼らに滅ぼされた国家である。彼らは主に狩猟や採取で生活をしており、三内丸山遺跡などで分かるような高度な独自の文化も持っていた。
エミシ(蝦夷)を宮崎駿は、大和政権とその支配下に入った稲作農耕民から追われて本州北部の山中に隠れ住んだ、焼畑・狩猟・採集・工芸を生業とする原日本人の残党と解釈している。かつて大和朝廷の支配に抵抗し、追われた人々。祭事の衣装や東北地方のマタギに似たアシタカの衣装、彼の使う「雅な椀」、娘の装束など、縄文時代の文化にブータンや北タイの焼き畑圏など照葉樹林文化圏の物が混ざった文化を形成している。
アテルイとの関連性
アテルイとは、エミシであり、西暦800年前後の日本の東北地方(岩手県の胆沢)に実在した人物。黄金等を狙い、理不尽に東北に攻め寄せてくる大和に対して、ただ従うのではなく抵抗するという歴史を作った、東北の歴史にとって非常に大切な人物。アテルイは優しく、そして圧倒的に強かった。
本作の主人公。17歳。エミシ(蝦夷、現在のアイヌ民族の祖とする説もある)がヤマト(大和、ヤマト王権または大和朝廷)との戦い(平安時代に起きた坂上田村麻呂の蝦夷征討)に敗れてから500年余り経過し、朝廷や将軍も衰えていた時代に、東と北の間にあると言われる村に生まれたエミシ一族の数少ない若者。かつて田村麻呂率いる朝廷軍と勇敢に戦った、エミシの勇者アテルイの血を引く高貴な生まれで、エミシ一族の族長となるための教育を受け、それにふさわしい気品を持つ。
縄文時代と室町時代の融合という独特の世界観
縄文文化の継承
もののけ姫には、縄文時代の文化と信仰が描かれている部分があります。主人公アシタカの村は縄文の文化を引き継いでおり、ヒイ様などのキャラクターは縄文時代の巫女を連想させます。このように、室町時代の描写と縄文代の要素が組み合わさっているのがこの映画の特徴です。縄文時代のアニミズム信仰は、物語との関連性が理解しやすいものとなっています。アニミズム信仰は万物に魂が宿るとする考え方で、石や草木にも神が宿るとするものです。この自然信仰は、自然を破壊して発展するたたら場とは対照的で、エミシの一族の村は縄文の色を色濃く描いているように感じられます。
また、エミシは縄文先住民と言われています。実際に、現在の北東北地方には今なお、縄文の遺跡が残っています。(2021年に北海道・北東北縄文遺跡群として世界文化遺産に登録されました。)つまり、アシタカは縄文先住民の末裔であり、映画のシーンでもその様子が描かれています。
時代の過渡期としての意味
推測ですが、宮崎駿監督は室町時代という時代を、近代の日本と遥かな過去の日本との中間地点だと考えているのではないでしょうか。少しづつ近代的な文化や価値観が広がっていく中に、失われつつある過去の文化が生き残っている。そんな過渡期を描いているのが、「もののけ姫」なわけですね。
具体的な歴史的証拠から見る時代設定
武器と技術の時代考証
『もののけ姫』で登場する石火矢(いしびや)は、室町時代末期、日本国内に伝来しました。エボシ御前が、「明国の鉄砲は重くて使いにくい」と発言するシーンがありますが、当時の中国の王朝は「明」であり、室町時代と一致します。大砲のプロトタイプのような石火矢(いしびや)とは、室町時代後期に西洋から導入された火砲の一種です。火薬を用い、石を弾丸とする背景から日本では石火矢と呼ばれていますが、破壊力の凄さから「国崩」とも言われています。
日本の映画で日本の歴史が描かれると、いつも都を舞台に、侍や、決まった階級の人間しか出てこないことが、おかしいと思っていました。本当の歴史の主人公たちは、辺境の地や野原に住んで、もっと豊かで、奥深い暮らしをしてきたはずなんです。
社会構造の流動性
『もののけ姫』の舞台である室町期は混乱と流動が日常の世界であり、南北朝からつづく下剋上やバサラの気、悪党たちの横行、新しい芸術の混沌などからこんにちの日本が形成されていく時代です。戦国もののような常備の軍が組織戦を行う時代ではなく、一所懸命の強烈な鎌倉武士の時代でもない。もっとあいまいな流動期で、武士と百姓の区別は定かではなく、女たちも職人尽くしの絵にあるように、よりおおらかで自由でした。さらに、室町時代は武士と百姓の区別が定かではなく、女性たちもよりおおらかで自由であったとされています。このような流動的な時代背景は、監督の「生きろ」というメッセージを強く反映しているとも言えるでしょう。
SNSで話題になった考察
もののけ姫の時代設定って室町末期〜戦国入りかけで朝廷も足利将軍家の力も弱まり、有力武士が次々と各地で台頭し、群雄割拠の壮絶な時代が始まろうとしている頃だからこそ、朝廷や貴族はシシガミの首を欲しがったし、侍たちは鉄という武器の素材を欲しがったんだろうと思う。
この考察は時代背景を見事に捉えています。権力の空白期だからこそ、超自然的な力への依存が強まったという視点は非常に興味深いものです。
すごいどうでもいいけど、もののけ姫の時代設定である室町時代の日本刀は打刀ではなく太刀が主流。だから刃を下にして佩いている。ちなみに打刀は刃を上にして差すものなんだよ
細かな時代考証への言及ですが、宮崎監督の歴史研究の深さがうかがえます。こうした細部への配慮が作品全体のリアリティを支えています。
現代への普遍的メッセージ
21世紀への警鐘
二十一世紀の混沌の時代にむかって、この作品をつくる意味はそこにある。『もののけ姫』のメッセージは「生きろ」です。このメッセージを伝えるにあたって、変化の最中にあり、混沌とした様子が室町と現代で重なったのではないでしょうか。
室町時代は、ちょうど数々の反乱が起きた”一揆”の時代でもあった。百姓が起こす土一揆のほか、山城国一揆のように地侍と農民らで守護大名の権勢を退け、8年にも渡って朝廷から切り離された自治組織を運営した例もある。ミリタリー好きな宮崎監督は、そのあたりの史実を基に、武器製造工場である製鉄施設の運営者たちの反乱による、ある意味で理想郷といえる小さな国家を創造したのだろう。
歴史の裏にいた人々への光
室町時代の終わり、つまり応仁の乱以降の日本は、それまでの秩序が崩壊した時代だった。足利幕府は京都の室町に幕府を置き、鎌倉幕府と違い朝廷と密な関係を築き、手を携えて政務を行なっていた。しかし、応仁の乱が勃発すると在京の大名の混乱は幕府にも波及。将軍家すら財政に悩まされる事態となる。そうばれば皇室も自然と困窮してゆく。権威・権力を支配する皇室と幕府が政治的にも財政的にもコントロール失えば、もちろん国は乱れ、下剋上が起こり、名もなき人々がうごめきはじめる。もののけ姫は、そんな秩序が失われかけた時代にうごめいていた「歴史の裏にいた人々」の物語なのだ。
まとめ:過去と未来をつなぐ室町時代という選択
もののけ姫の時代設定は単純に「室町時代」と言うだけでは説明しきれない複層的な世界観を持っています。宮崎駿監督は、本作は照葉樹林文化論の示唆を受けた世界観を舞台としている。本作では稲作農民に代表される平地の「定住民」とは全く別の生活圏を持つ「遍歴民(山民・海民・芸能民など)」が多く取り上げられる。『もののけ姫』は、遍歴民の世界で展開される物語である。
縄文時代から続く自然信仰と、室町時代の激動する社会、そして現代につながる環境破壊の始まり。この三つの時代を重ね合わせることで、宮崎監督は「生きろ」というメッセージに普遍性を与えたのです。
アシタカが「森と人間が争わずに済む道はないのか」と問いかける言葉は、現代の私たちにも深く響きます。500年前の室町時代から現代まで、人類が抱え続けている根本的な問題を、宮崎監督は見事に描き出したのです。
歴史を知ることで、もののけ姫はより深く、より豊かな作品として私たちの心に響くでしょう。あなたも改めて作品を観直してみませんか?きっと新しい発見があるはずです。
項目 | 詳細 |
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時代設定 | 室町時代後期(15-16世紀頃) |
具体的年代推定 | 1368年(明建国)〜1543年(鉄砲伝来) |
エミシ敗北からの経過 | 500年余り(前九年・後三年の役から) |
社会的特徴 | 下剋上、貨幣経済普及、女性の自由度向上 |
文化的融合 | 縄文時代の自然信仰+室町時代の技術革新 |
この時代設定こそが、もののけ姫を単なるファンタジーではなく、深い歴史観を持つ傑作アニメーションにしているのです。