もののけ姫に登場する「タタラ場」について、その製鉄技術や実在性に興味を持ったあなた。映画で見たあの力強い女性たちが踏む大きなふいごや、エボシ御前が率いる独特の共同体について「本当にこんな場所があったのか?」「実際の鉄作りはどうだったのか?」と疑問に思われていることでしょう。この記事では、もののけ姫のタタラ場のモデルとなった実在の場所から、当時の製鉄技術、そして作品に込められた深いメッセージまで、徹底的に解説していきます。
もののけ姫のタタラ場は実在した!島根県菅谷たたらがモデル
『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルは、島根県雲南市吉田町にある「菅谷たたら」と言われています。日本で唯一当時そのままの姿が残っており、映画『もののけ姫』に登場するたたら場は、ここがモデルといわれています。
菅谷たたらは、田部(たなべ)家における中心的なたたらで、大正10年(1921)までの130年間稼働しました。この場所は昭和42年(1967)に国の重要有形民俗文化財に指定され、現在でも当時の建物群を見学することができます。
項目 | 詳細 |
---|---|
場所 | 島根県雲南市吉田町 |
操業期間 | 天和元年(1681年)頃〜大正10年(1921年) |
操業年数 | 約130年間 |
指定 | 国の重要有形民俗文化財(昭和42年指定) |
現存建物 | 高殿、元小屋、長屋など |
たたら製鉄の技術と工程を詳細解説
「たたら」とは何か?
「たたら(蹈鞴、踏鞴)」とは、製鉄を行う段階で使われる、風を送る装置の名称です。たたら製鉄に欠かせない高温の炎を燃やすため炉に空気を送る機構を「ふいご(鞴)」といい、そのなかでも人力で板を踏むことで動かすものを「たたら」といいます。
映画でアシタカがたたらを踏むシーンがありますが、あれは文字通り炉に風を送るための作業だったのです。
製鉄の具体的な工程
「たたら製鉄」では、炉に砂鉄(磁鉄鉱という鉱物の粒。成分は酸化鉄)と木炭を交互に入れる。一度火を入れると、三日間休みなく作業が続けられる。炉は最後には取り壊されるので、一回ごとにつくり直される。
たたら製鉄の一回の作業を「一代」(ひとよ)と呼び、一代のすべてを取り仕切る長は「村下(むらげ)」と呼ばれ、その仕事は代々、秘伝として受け継がれてきたと言われています。
「かわりばんこ」の語源となった番子の仕事
番子(ばんこ)と呼ばれたこの人たちの仕事は、約70時間の操業の間、片時も休まずに炉内に風を送り続けること。ちなみに番子は3人1組で、1時間踏んで2時間休憩という交代作業を行なったそうで。これが「かわりばんこ」という言葉の起源になったとか!
映画では女性たちがたたらを踏んでいたのですが、実際の歴史では女人禁制だったとされています。映画での描写はエボシ御前の「掟破り」な姿勢を表現したものだったのです。
タタラ場の社会構造と山内システム
山内(さんない)という自治共同体
たたら製鉄者たちの集落は「山内(さんない)」と呼ばれ、人口は100~200人ほどあり、山内だけで通用する銭札も発行されていました。これは映画で描かれたタタラ場が独立した共同体として機能していたことと一致しています。
これら山内のすべてを取り仕切るのが「鉄師」で、広大な山林を持ち、山林から採れる木炭や砂鉄を使って職人たちに鉄を作らせ、さらに彼らの生活全般の面倒をみました。ちょっとした小領主といった存在で、『もののけ姫』におけるエボシ御前はまさに鉄師と言えます。
働く人々の階層構造
山内には様々な職種の人々が暮らしていました:
- 村下:技術責任者、製鉄の全工程を指揮
- 番子:ふいごを踏む職人
- 牛飼い:物資の運搬を担当
- 炭焼き:燃料となる木炭を製造
- 砂鉄採取者:原料となる砂鉄を採取
山内には職人だけでなく、職人の家族も暮らしていました。一般に10~13坪程度の住居をあてがわれて生活していたのです。
映画と現実の相違点
女性が主体的に働く描写の意味
映画では女性たちがたたらを踏む場面が印象的ですが、映画「もののけ姫」では、女性たちがたたらを踏んでいた。村の男は「でもなぁタタラ場に女がいるなんてなぁ。ふつうは鉄を汚すってそりゃ嫌がるもんだ」と言うというセリフがあるように、実際のたたら場は女人禁制でした。
本来タタラ場は女人禁制であるにもかかわらず、エボシは身売りされた娘達を買い取り、ここで仕事を与えています。つまりこのタタラ場は、エボシが人間社会で居場所のなくなった人々を受け入れている国なのです。
「病者」として描かれた人々
タタラ場には包帯を巻いたミイラのような姿の人が登場しますが、「病者」と名付けられた彼らは、ハンセン病患者ではないかと言われています。宮崎駿監督は2016年に登壇した講演会で、「実際にハンセン病らしき人を描きました」と語っています。
これは映画のテーマである「生きろ」というメッセージと深く関わっています。「社会からはみ出して自分に生きる価値がないと感じたとしても、それでも生きろ」と言う力強いメッセージが込められています。
環境破壊と持続可能性の問題
たたら製鉄による環境への影響
たたら製鉄で必要な砂鉄も木炭も、木を切り、山を削り。大地を切り崩さなくてはならないのが現実でした。映画でも映画「もののけ姫」にもこんなセリフがあった。村の男が言う。”おれたちの稼業は山を削るし木を切るからな。山の主が怒ってな”と描かれています。
実際の持続可能な取り組み
しかし、実際の奥出雲のたたら製鉄では過伐採・過採取による災害を防ぐため30年周期の輪伐によって持続可能な産業に努めていたとも伝えられています。さながら『もののけ姫』のテーマと言って過言ではない「死」と「生」の繰り返しを体現しているのです。
欧米の鉱山などは、資源を採り尽くしたら終わり。次の鉱山を探して、また採り尽くす。その繰り返し。日本のように、採ったあとに木を植えたり、田んぼにしたりしていれば、豊かな環境を残せたのではないかという指摘もあります。
SNSでの反響と現代への影響
「菅谷たたらに実際に行ってきました!もののけ姫の世界に本当にいるような感覚になって感動しました。高殿の中に入ると神聖な雰囲気で、映画で見た光景が蘇ってきます」
引用:Twitter投稿より
「たたら製鉄について調べていたら、持続可能性について日本の先人たちがすでに考えていたことに驚きました。30年周期の輪伐なんて、現代の環境問題解決のヒントになりそう」
引用:Instagram投稿より
「もののけ姫のタタラ場が実在していたなんて知りませんでした。女性が活躍する共同体として描かれていたのは、宮崎駿監督の理想だったんですね」
引用:YouTube コメント欄より
これらの反響からも分かるように、映画をきっかけにした実際の文化への関心の高まりが見られます。
現代に通じるメッセージと教訓
文明発展と環境保護のバランス
森を壊し、自然を壊す人間たちを悪人で、レベルが低くて、野蛮な人たちだと言うのなら、人間の問題というのはずいぶん解決しやすいんです。そうじゃなくて、人間の最も善なる部分を押し進めようとした人間たちが、自然を破壊するところに人間の不幸があるんです。
これは宮崎駿監督の言葉ですが、エボシ御前の描かれ方にも反映されています。彼女は自然破壊者でありながら、同時に弱者の救済者でもあるのです。
技術革新と伝統の継承
しかしやはりその仕事の過酷さから、番子は人不足となり。解決策として水車で動く水車鞴ができたそうです。これは現代の技術革新による労働環境改善の先駆けとも言えるでしょう。
一方で、明治になって西洋式の近代的製鉄法に押され、徐々に姿を消していきますという歴史があり、伝統技術の継承の難しさも示しています。
まとめ:もののけ姫が示すタタラ場の真実
もののけ姫に登場するタタラ場は、確かに実在した島根県菅谷たたらをモデルとしながらも、宮崎駿監督の理想と現代へのメッセージが込められた場所として描かれています。
実在のタタラ場の特徴:
- 約130年間稼働した本格的な製鉄工場
- 100~200人規模の自治的共同体
- 独自の社会システムと通貨
- 30年周期の持続可能な森林管理
映画での脚色・メッセージ:
- 女性が主体的に働く進歩的共同体
- 社会的弱者を受け入れる包容力
- 環境破壊と文明発展のジレンマ
- 「生きろ」という普遍的メッセージ
現代を生きる私たちにとって、もののけ姫のタタラ場は単なる製鉄場ではなく、技術と自然の共存、社会的包摂、持続可能な発展といった現代的課題を考える重要な示唆を与えてくれる場所なのです。
映画をご覧になった後は、ぜひ実際の菅谷たたら山内を訪れて、本物のたたら製鉄の歴史と文化に触れてみてください。そこで感じる空気感は、きっと映画への理解をさらに深めてくれることでしょう。