「なぜもののけ姫の舞台は室町時代なの?」「アシタカの村は縄文時代っぽいのに、エボシの村では鉄砲があるのはどうして?」もののけ姫を観ていて、このような疑問を持ったファンは多いのではないでしょうか。作品の中で様々な時代の要素が混在しているように見え、一体なぜ宮崎駿監督は室町時代を選んだのか気になりますよね。
この記事では、もののけ姫が室町時代に設定された深い理由と、宮崎駿監督の制作意図について、歴史的背景から具体的な時代考証まで、ファンなら知っておきたい情報を徹底的に解説します。最後まで読めば、作品に込められた監督の真のメッセージを理解できるはずです。
もののけ姫の時代設定は室町時代後期
『もののけ姫』の時代設定には「室町時代である」と公式の答えが存在します。これはスタジオジブリが公式に発表している設定で、単なる推測ではありません。
より詳しく言うと、室町時代は1336年~1573年までの257年間をさしますが、作中でエボシ御前が石火矢について「明国のものは重すぎる」と発言しているため、明が建国した1368年以降、応仁の乱を経て鉄砲伝来までの1543年を舞台とする説が有力なようです。
つまり、もののけ姫の舞台となっているのは室町時代後期(1368年~1543年頃)ということになります。これは足利義満が三代目将軍に就任した時期から、戦国時代に入る直前までの約175年間という長いスパンの中のどこかということです。
時期 | 歴史的背景 | 作品への影響 |
---|---|---|
1368年 | 明王朝建国・足利義満将軍就任 | エボシの「明国の石火矢」発言の根拠 |
1467~1477年 | 応仁の乱 | 中央権力の弱体化・混乱した世情 |
1543年 | 鉄砲伝来 | 石火矢の時代設定上限 |
宮崎駿監督が室町時代を選んだ4つの理由
1. 「おもしろい時代」としての室町時代
宮崎駿監督は室町時代を「おもしろい時代」と表現しています。その理由について、監督自身がこう語っています:
「室町時代の前、鎌倉時代は、人が主義主張で生きていた。もっと壮絶な人々が生きていた時代です。それが室町時代になると、得なほう、都合のいい方につこうということで動くようになる(笑)。そういう意味で室町というのは、ちょっとおもしろい時代だなと思ったもんですから」
この発言から分かるように、宮崎駿監督は人々の価値観が変化した転換期として室町時代に注目しているのです。主義主張で生きていた鎌倉武士から、現実的で利害関係で動く人々への変化は、現代社会にも通じる人間の本質を描くのに適していたのでしょう。
2. 女性が自由でかっこよかった時代
「それに、女たちが自由でかっこいいんです」という監督の言葉は、宮崎作品の特徴である強い女性キャラクターを描く上で重要な要素でした。
室町時代は「もっとあいまいな流動期で、武士と百姓の区別は定かではなく、女たちも職人尽くしの絵にあるように、よりおおらかで自由でした」とされています。実際、作品の中心であるタタラ場はエボシ御前をリーダーとする女性が活躍する場として描かれています。
3. 混乱と流動の時代としての魅力
「この作品が舞台とする室町期は混乱と流動が日常の世界であった。南北朝からつづく下剋上、バサラの気風、悪行横行、新しい芸術の混沌の中から、今日の日本が形成されていく時代である」とされています。
この混乱した時代背景は、「二十一世紀の混沌の時代にむかって、この作品をつくる意味はそこにある」という監督の意図と深く結びついています。現代社会への強いメッセージとして機能させるために、意図的に選ばれた時代設定なのです。
4. 従来の時代劇への挑戦
「日本の映画で日本の歴史が描かれると、いつも都を舞台に、侍や、決まった階級の人間しか出てこないことが、おかしいと思っていました。本当の歴史の主人公たちは、辺境の地や野原に住んで、もっと豊かで、奥深い暮らしをしてきたはずなんです」という監督の言葉が示すように、もののけ姫は時代劇の革命を意図した作品でした。
- 従来の時代劇:都・侍・決まった階級の人間が中心
- もののけ姫:辺境の地・多様な職能民・歴史の裏にいた人々が中心
室町時代と縄文時代の融合という独特な世界観
もののけ姫の世界観で特徴的なのは、室町時代と縄文時代を融合させているのが特徴ですという点です。これは単純なミスマッチではなく、監督の深い意図があります。
アシタカの村に残る縄文文化
主人公アシタカの村は縄文の文化を引き継いでおり、ヒイ様などのキャラクターは縄文時代の巫女を連想させます。これは「まつろわぬ民」として、大和政権に従わずに古い文化を守り続けた人々の象徴として描かれています。
アシタカは、エミシの英雄・アテルイの子孫という設定だ。アテルイは、現在の岩手県に土着していたエミシの統領だと言われている。平安時代初期、征夷大将軍の坂上田村麻呂に敗れ、後に朝廷に騙された討ち取られたという歴史的背景があります。
自然信仰とアニミズムの世界
縄文時代のアニミズム信仰は、物語との関連性が理解しやすいものとなっています。アニミズム信仰は万物に魂が宿るとする考え方で、石や草木にも神が宿るとするものです。
この信仰体系が、シシ神やコダマ、山犬や猪神などのもののけたちの設定の基盤となっています。室町時代の現実的な世界と、縄文時代の精神的な世界を対比させることで、失われていく自然と神々の世界を表現しているのです。
歴史的背景から見る室町時代の特殊性
明王朝との交易が生んだ変化の時代
室町時代という時代背景は、中国で元王朝が滅び、明王朝が誕生した時代と重なります。この時期には、明王朝が日本との交易を望み、日本には明から様々な物品や思想、文化が流れ込んできました。
この国際的な変化は、作品にも反映されています:
- エボシの「明国の石火矢は重すぎる」という発言
- 新しい技術や文化の流入による社会変化
- 伝統的な価値観との衝突
応仁の乱がもたらした秩序の崩壊
足利幕府は京都の室町に幕府を置き、鎌倉幕府と違い朝廷と密な関係を築き、手を携えて政務を行なっていた。しかし、応仁の乱が勃発すると在京の大名の混乱は幕府にも波及。将軍家すら財政に悩まされる事態となるという状況が、作品の背景にあります。
この権力の空白状態こそが、エボシのタタラ場のような自治組織や、朝廷によるシシ神狩りといった物語の動機を生み出しているのです。
SNSや専門家が注目する時代設定の深さ
現代でも多くの研究者や愛好家が、もののけ姫の時代設定について議論を続けています。
「もののけ姫の時代設定って室町末期〜戦国入りかけで朝廷も足利将軍家の力も弱まり、有力武士が次々と各地で台頭し、群雄割拠の壮絶な時代が始まろうとしている頃だからこそ、朝廷や貴族はシシガミの首を欲しがったし、侍たちは鉄という武器の素材を欲しがったんだろうと思う」
この投稿は、室町時代後期の政治的混乱が物語の根幹に関わっていることを鋭く指摘しています。権力の弱体化こそが、朝廷に「神を殺してでも権力を取り戻したい」という願望を抱かせたという解釈です。
「時代は室町時代。隠れながら『縄文文化』を継ぐ東北地方の蝦夷の青年が、西に残るシシ神の森と、たたら製鉄という人間の業に出会った時、『どう生きていくか』を問われるという物語」
この考察では、作品の本質を縄文文化を継ぐ者と近代文明の衝突として捉え、「どう生きていくか」という普遍的なテーマを読み取っています。
「『もののけ姫』(なつを) 生きろ、そなたは美しい。 室町時代の日本を舞台に、荒ぶる神々と人間との争いを描く。 雄大な自然と、人々の営みが細部まで描写された映像の数々は圧巻。人と自然、双方生きる道はないのか?今だからこそ向き合いたいテーマ」
現代の環境問題と重ね合わせながら、室町時代設定の意味を考察したこの投稿は、時代を超えたテーマの普遍性を感じさせます。
石火矢と武器描写に見る時代考証の細かさ
もののけ姫の時代考証の精密さは、武器の描写にも現れています。大砲のプロトタイプのような石火矢(いしびや)とは、室町時代後期に西洋から導入された火砲の一種です。
宮崎駿監督自身はもののけ姫に石火矢を登場させているのは「応仁の乱で原始的な火砲が使われていたという説」から想像を膨らませたと発言しており、歴史的根拠に基づいた描写であることが分かります。
このような細かい時代考証は、作品全体の説得力を高め、ファンタジーでありながらリアリティのある世界観を創り出すことに成功しています。
武器から読み取れる社会情勢
武器 | 使用者 | 時代的意味 |
---|---|---|
石火矢 | エボシ・石火矢衆 | 新しい技術への適応・明との交易 |
薙刀・長巻 | タタラ場の人々 | 武士と農民の境界の曖昧さ |
弓矢 | アシタカ | 古い伝統文化の継承 |
現代への普遍的メッセージとしての室町時代
宮崎駿監督が室町時代を選んだ最大の理由は、現代社会への強いメッセージを込めるためでした。推測ですが、宮崎駿監督は室町時代という時代を、近代の日本と遥かな過去の日本との中間地点だと考えているのではないでしょうか。
過渡期として描かれる意味
少しづつ近代的な文化や価値観が広がっていく中に、失われつつある過去の文化が生き残っている。そんな過渡期を描いているのが、「もののけ姫」なわけですね。
この構造は現代社会にも当てはまります:
- 発展する技術:タタラ場の製鉄技術 ↔ 現代のIT・AI技術
- 失われる自然:シシ神の森の破壊 ↔ 環境破壊・温暖化
- 伝統の消失:エミシの村の孤立 ↔ 地方文化の衰退
「生きろ」というメッセージの背景
宮崎駿は『もののけ姫』は10代の若者に向けて作った映画だという。「どうして生きなきゃいけないんだ」 そう感じている子供たちのために作ったのだと。
混乱した室町時代という設定は、現代の若者たちが感じる価値観の混乱や将来への不安と重なります。正解のない時代をどう生き抜くか、という普遍的なテーマを描くために、室町時代という「正解のない時代」が選ばれたのです。
歴史の裏にいた人々の物語として
宮崎駿が選んだ舞台が室町時代の終わりであり、かつ一般的な時代劇が描いてこなかった「歴史の裏にいた人々」が物語の中心だからだ。
もののけ姫に登場する人々は、みな正史には残らない人々です:
- アシタカ:エミシの隠れ里の住人(歴史の敗者)
- エボシ:たたら製鉄の技術者集団のリーダー(職人・技術者)
- サン:森に住む「山の民」(自然と共生する人々)
- ジコ坊:山岳修行者・フィクサー(宗教的アウトサイダー)
本作では稲作農民に代表される平地の「定住民」とは全く別の生活圏を持つ「遍歴民(山民・海民・芸能民など)」が多く取り上げられる。『もののけ姫』は、遍歴民の世界で展開される物語である。
ネット上で話題の深い考察
SNSでは現在でも、もののけ姫の時代設定について深い考察が続けられています。
「宮崎駿はもののけ姫作った当時、網野善彦と対談しているんだけど、室町に時代設定した動機については『枯山水が出たのが室町期で、枯山水で自然を再現するのは、人間の近くに自然が無くなったからではないか』という仮説を披露していて」
この考察は特に興味深く、枯山水の誕生を「自然の消失」の象徴として捉え、室町時代を「人間と自然の関係が変化した転換点」として位置づけています。
「1997年3月、『もののけ姫』制作発表記者会見の中で宮崎駿監督は次のように語りました。『男と女の力関係のようなものは、江戸時代に作られた関係がいつの時代でも同じだと思い込んでいるところがあるんですけれども、室町時代の女たちはもっと自由でかっこいいですよ』」
この発言からも、監督が室町時代の女性の地位に着目していたことがわかります。エボシ御前やサンのような強い女性キャラクターの背景には、こうした歴史認識があったのです。
別の切り口:室町時代が可能にした物語構造
室町時代という設定は、もののけ姫の複雑な物語構造を可能にした重要な要素でもあります。
権力の多元化が生んだ複雑な対立構造
室町時代後期の特徴である権力の分散状態が、作品の多層的な対立構造を可能にしています:
- 朝廷:シシ神の首を求める古い権力
- 武士団:鉄と領地を求める新興勢力
- タタラ場:技術と経済力を持つ自治組織
- 森の勢力:自然を守ろうとする神々とサン
- エミシの村:古い文化を守る「まつろわぬ民」
これらの勢力が複雑に絡み合うことで、単純な善悪の対立を超えた深い物語が生まれています。
技術革新と伝統的価値観の衝突
宮崎駿は『もののけ姫』で描かれる室町時代について、産業的に大きな飛躍があったと述べている。この産業革命的な変化が、伝統的な自然観や神観との衝突を生み出し、物語の核心となる対立構造を作り上げています。
まとめ:時代を超えた普遍的メッセージを込めた室町時代設定
宮崎駿監督がもののけ姫の舞台に室町時代を選んだ理由は、単なる時代考証の正確さを求めたものではありませんでした。現代社会への強いメッセージを込めるために、最も適した時代として室町時代が選ばれたのです。
宮崎駿監督が室町時代を選んだ理由は、この時代が持つ「混乱と流動」「下剋上の精神」「女性の自由さ」といった特徴が、現代社会への強いメッセージとして機能するからでした。
室町時代という設定により実現されたこと:
- 従来の時代劇からの脱却:「歴史の裏にいた人々」の物語
- 複雑な世界観の構築:縄文時代と室町時代の融合
- 現代への普遍的メッセージ:変化の時代をどう生きるか
- 多層的な物語構造:権力の分散状態が生んだ複雑な対立
従来の時代劇が描かない「歴史の裏にいた人々」の物語として、もののけ姫は真の意味での「時代劇の革命」を成し遂げたのです。
この深い時代背景を理解することで、作品に込められた「生きろ」というメッセージがより強く響いてきます。もののけ姫は、室町時代という特殊な時代設定を通じて、過去と現在、そして未来を繋ぐ普遍的な物語として、私たちに多くのことを語りかけ続けているのです。
宮崎駿監督の室町時代への深い洞察と、そこに込められた現代へのメッセージを知ることで、もののけ姫という作品の真の価値がより深く理解できるでしょう。それは単なるアニメーション映画を超えた、時代を超えた芸術作品としての普遍性なのです。