もののけ姫情報

もののけ姫のタタラ場とは?製鉄所と環境破壊の真実を徹底解説!

もののけ姫のタタラ場とは?製鉄所と環境破壊の真実を徹底解説! もののけ姫情報
もののけ姫のタタラ場とは?製鉄所と環境破壊の真実を徹底解説!

もののけ姫を観た方なら、アシタカが初めてタタラ場に足を踏み入れた時の衝撃的なシーンを覚えているでしょう。「まるで城だ」と呟いた彼の言葉通り、要塞のような建物からは不気味な炎の光が漏れ、女性たちが巨大なふいごを踏む音が響いています。このタタラ場こそが、物語の核心部分であり、人間と自然の対立を象徴する重要な舞台なのです。

タタラ場とは砂鉄から鉄を取りだす作業を行う場所で、いわば昔の製鉄所ですが、映画では単なる工場以上の意味を持っています。エボシ御前が率いるこの場所が、なぜ「もののけ姫」の物語において中心的役割を果たすのか、そして実際の歴史におけるタタラ製鉄がどのような環境影響をもたらしたのかを、7000文字にわたって詳しく解説していきます。

もののけ姫のタタラ場とは – 物語の核心となる製鉄所

シシ神の森を抜けたアシタカたちは、甲六たちの住処にたどり着く。そこは「タタラ場」と呼ばれる、鉄を作る村であったのです。その地を治めるエボシは「石火矢」と呼ばれる火砲を村人に作らせており、それを使って森に棲む「もののけ」や、村の鉄を狙う地侍たちから村を守っていたと描かれています。

タタラ場の社会的機能

タタラ場には包帯を巻いたミイラのような姿の人が登場しますが、「病者」と名付けられた彼らは、ハンセン病患者ではないかと言われています。さらに重要なのは、本来タタラ場は女人禁制であるにもかかわらず、エボシは身売りされた娘達を買い取り、ここで仕事を与えていますという点です。

つまり、エボシのタタラ場は単なる製鉄所ではなく、人間社会で居場所のなくなった人々を受け入れている国なのです。これは宮崎駿監督が意図的に描いた理想の共同体像でもあります。

製鉄技術の詳細

粘土製の炉で砂鉄や鉄鉱石を木炭で熱して低温で還元し、純度の高い鉄を精製する方法を「たたら製鉄」といいます。炉に空気を送り込むために使われるのが「鞴(ふいご)」で、劇中では女性たちが踏みふいごをしており、アシタカも手伝っていました。

「たたら(蹈鞴、踏鞴)」とは、製鉄を行う段階で使われる、風を送る装置の名称です。「もののけ姫」の女達が踏んでいたのはこの板で、映画では”四日五晩(よっかいつばん)踏み抜くんだ”と言っていました。

実在するタタラ場のモデル – 菅谷たたら山内

現存するのは島根県雲南市吉田町にある「菅谷(すがや)たたら」のみで、『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルも、この菅谷たたらと言われています。

菅谷たたらの特徴

山内(さんない)とは、日本古来の製鉄法であるたたら製鉄に従事していた人達が日々働き、生活していた地区の総称です。高殿、元小屋、長屋などが残っており、当時の風景を今に伝えています。

映画『もののけ姫』に登場するたたら場は、ここがモデルといわれています理由として、深い森に隣接していること、世界1とも言われる高品質な鉄を多く生み出していたこと、そして、中国地方には「金屋子神(かなやごかみ)」と呼ばれる製鉄の神の言い伝えがあることなどが挙げられます。

金屋子神の存在

高殿の横に立つ桂の巨木は、たたらの神様「金屋子神」が降り立ったご神木とされ、春の芽吹きの時期に3日間、まるで紅葉したかのように真っ赤に染まります。村の男は「でもなぁタタラ場に女がいるなんてなぁ。ふつうは鉄を汚すってそりゃ嫌がるもんだ」と言うのも、この金屋子神の掟に関係しています。

タタラ製鉄と環境破壊の実態

森林伐採の規模

たたら製鉄では大量の木炭が使用されるため、森林伐採で環境破壊の問題もありました。その規模は想像を絶するものでした。「タタラを維持するために山林の樹木を20年に一度伐採して使うとすると、一つのタタラが操業し続けるために必要な山林の面積は800町歩(約793ha)」とも言われるほどです。

中国山地では古くからたたら製鉄を行ってきました。この地域は原料となる良質な砂鉄を含む花崗岩が広く分布し、また、燃料となる木炭を生産した森林も広大であったため、鉄の一大産地となり、最盛期(江戸後期~明治初頭:18世紀末~19世紀)には国内の鉄生産量の9割近くを占めたという記録があります。

鉄穴流しによる土地改変

製鉄の原料となる砂鉄を得るための「鉄穴流し」も、環境に大きな影響を与えました。「たたら製鉄」は、砂鉄を得るための鉄穴流しや、製鉄に使う木材を得るための森林伐採など、地域によっては、環境破壊に直結し、はげ山や荒れた土地が残されている場所もあります。

持続可能性への転換

しかし、すべてのタタラ製鉄が環境破壊だったわけではありません。奥出雲町では、鉄穴流しの跡地を棚田として農地に再生し、また木炭の生産のために木を切り出した山に、木を植えて、約30年のサイクルで再度木が得られるようにと、持続可能な産業を作り上げました。

鉄の持続的生産のために森林を循環利用して資源を維持するという考え方は、現代の環境問題を考える上でも重要な示唆を与えています。

物語におけるタタラ場の象徴的意味

文明と自然の対立

彼らは鉄を作るために自然を破壊しているという自覚はあったが、シシ神やもののけたちを敬っているわけではなかったという描写は、人間の文明が自然に与える影響を象徴的に表しています。

製鉄に必要となるのは、大量の砂鉄と山の木々であり、タタラ場の営みは自然を大きく破壊します。そして、ここで生み出された鉄を用いた石火矢(いしびや)が猪神のナゴの守(かみ)に致命傷を与え、タタリ神としてアシタカに呪いを与えることとなりました。

女性労働者の歌声

アシタカはタタラ場にて、女衆たちが歌う『タタラうた』を聞きます。この歌は:

「ひとつふたつは 赤子もふむが みっつよっつは 鬼も泣く泣く タタラおんなは こがねのなさけ」

多くの悲しみや憎しみを生み出しながら、国崩しを推し進めようとするタタラ場の指導者「エボシ御前(ごぜん)」にアシタカは当初、明確な敵意を示します。そんな彼が、タタラ場の女たちと触れ合うことで認識を変える瞬間があります。

現実のタタラ場で働く人々の生活

山内社会の構造

たたら製鉄者たちの集落は「山内(さんない)」と呼ばれ、人口は100~200人ほどあり、山内だけで通用する銭札も発行されていました。これら山内のすべてを取り仕切るのが「鉄師」で、広大な山林を持ち、山林から採れる木炭や砂鉄を使って職人たちに鉄を作らせ、さらに彼らの生活全般の面倒をみました。

労働者の過酷な実態

実際の労働は想像以上に過酷でした。番子(ばんこ)と呼ばれたこの人たちの仕事は、約70時間の操業の間、片時も休まずに炉内に風を送り続けることでした。番子は3人1組で、1時間踏んで2時間休憩という交代作業を行なったそうで。これが「かわりばんこ」という言葉の起源になったとも言われています。

生活の困窮

山内には職人だけでなく、職人の家族も暮らしていましたが、その量は十分とは言えず、重労働の男性たちの食糧を賄うため、女性や子どもたちは芋めしや葉かゆで我慢するケースも多かったという記録があります。

現代に残るタタラ製鉄の意義

日本刀の素材生産

現在では、日本刀の原材料「玉鋼」の生産を目的として、島根県仁多郡奥出雲町にある「日刀保たたら」などが稼働している状況です。日本刀の素材となる玉鋼(たまはがね)などはこの製鉄法でしかつくれません。

循環型産業のモデル

たたら製鉄は映画やテレビドラマなど多くの作品で取り上げられているので、環境破壊というイメージを持つ人もいると思います。しかし奥出雲のたたら製鉄は、循環型産業として栄えました。

実際の奥出雲のたたら製鉄では、過伐採・過採取による災害を防ぐため30年周期の輪伐によって持続可能な産業に努めていたとも伝えられています。

フィクションと現実の融合

宮崎駿の意図

フィクションが必ずしも史実を忠実に再現する必要はなく、むしろ「本当ではない」からこそ、そこに託されたメッセージや理想が際立ち、観る者の心に強く訴えかけることがあります。

映画『もののけ姫』に登場するたたら場は、非常に印象的な場所として描かれています。エボシ御前というカリスマ的な指導者のもと、多くの女性たちがふいごを踏み、額に汗して鉄作りに従事しています。

理想化された描写の意味

そこはまるで、外部の権力から独立した自治的な共同体のようであり、困難な状況にありながらも、未来を切り開こうとする人々のエネルギーに満ち溢れています。

しかし、実際のたたら製鉄の現場はどのようなものだったのでしょうか。特に江戸時代から明治初期にかけて盛んに行われた「たたら製鉄」の現場は、映画のイメージとは大きく異なる様相を呈していました。

まとめ:タタラ場が示す現代への教訓

もののけ姫のタタラ場は、単なる製鉄所以上の深い意味を持っています。それは人間と自然の関係、技術進歩と環境保護、そして社会的弱者への配慮といった現代でも重要なテーマを内包しているのです。

エボシ御前のタタラ場は確かに環境破壊を行いましたが、同時に社会から疎外された人々に居場所を提供する理想郷でもありました。この複雑さこそが、宮崎駿監督が描きたかった人間社会の縮図なのでしょう。

実在したタタラ製鉄の歴史を見ると、初期は確かに環境破壊的側面がありましたが、後に持続可能な循環型産業へと発展していったことがわかります。これは現代の環境問題を考える上でも重要な示唆を与えています。

「生きろ。」というストレートなキャッチコピーに込められた、「社会からはみ出して自分に生きる価値がないと感じたとしても、それでも生きろ」と言う力強いメッセージは、タタラ場という舞台があってこそ、より深く観客の心に響くのです。

タタラ場は過去の技術でありながら、現代に生きる私たちにとって多くの学びを提供してくれる、まさに知恵の宝庫と言えるでしょう。

『もののけ姫』が描いたたたら場は、確かにフィクションです。しかし、その背景には、日本の山間部で何百年にもわたり受け継がれてきた、本物の「たたら文化」が存在します

『もののけ姫』でも、たたら製鉄のために自然を破壊する人間の業が描かれています

あの美味しい仁多米を育む、美しい棚田の景観も、ジューシーな椎茸や舞茸、そして奥出雲の和牛、出雲そば、そうした今ある奥出雲町の素晴らしい産品が、「たたら製鉄」と自然を共存させてきた先人から受け継がれてきたものということです

映画と歴史的事実の両方を理解することで、私たちはタタラ場という舞台が持つ豊かな意味を、より深く味わうことができるのです。

タイトルとURLをコピーしました