もののけ姫を見るたびに、あの白い小さな森の精霊「こだま」が首をカタカタと振る姿に心を奪われませんか?あの独特な音と動きには一体どんな意味が込められているのでしょう。多くのファンが気になるこの疑問について、制作背景から考察、さらにはトトロとの関係まで、この記事で徹底的に解明していきます。
こだまのカタカタ音の正体 – 制作現場で使われた楽器
スタジオジブリの公式ツイッターによれば、こだまが木の精霊ということから、「木製のカスタネット」を使ったと明かされています。この公式発表により、長年の謎だった音の正体がついに判明しました。
Q:コダマのカタカタッ…という声?は楽器の音ですか?
A:特報のときは「土鈴」を使って。作中ではコダマは木の精霊だから木製のものでいこうということになり「木製のカスタネット」を使って収録しています。
興味深いことに、制作過程では複数の楽器が検討されていました。特報版では「土鈴」が使われており、最終的に「木の精霊らしさ」を重視して木製のカスタネットに変更されたのです。この音の選択にも、宮崎駿監督の細部へのこだわりが表れています。
こだまの首振り行動が持つ3つの有力説
1. 呼吸説
樹木の精霊であるこだまは、植物同様に呼吸をしていると考えられます。そして首と頭の間にある空洞から呼吸をしており、その時にカタカタと音がしているのではないかという説があります。
この説の根拠として、こだまの顔に空いた3つの穴(目と口)が呼吸器官として機能している可能性が挙げられます。植物が気孔を通じて呼吸するように、こだまも独特な方法で呼吸をしているのかもしれません。
2. コミュニケーション説
人間には理解できない言葉で、こだまたちの間で何か言葉を話しているのではないかと言われています。デイダラボッチ(シシ神)の出没で、こだまたちは一斉にカタカタと大きな音を出しました。
劇中では特に重要な場面で、こだまたちが一斉に首を振る様子が描かれています:
- デイダラボッチ(シシ神の夜の姿)出現時
- アシタカが怪我人を背負って森を移動中
- シシ神が出現する直前
これらのタイミングを考慮すると、こだま同士で重要な情報を伝達している可能性が高いと考えられます。
3. 存在表示説
蝉の中で鳴くのはオスのみ。メスに自分をアピールするために鳴きます。自分の存在を示すために鳴いているという動物行動学的観点から、こだまの行動を分析する説もあります。
この説は、三つの中でも一番有力とされています。こだまはデイダラボッチの出没のほかに、ケガをしたアシタカが運ばれているシーンでも大きな音を出していたので、周りに自分たちの存在を知らしめようとしていたのかもしれません。
宮崎駿監督が描いたこだまの詩的表現
宮崎駿監督が、『もののけ姫』の音楽を担当した久石譲さんに作品のイメージを伝えるために書いた詩があります。その詩『コダマ達』には以下のような表現があります:
現れたと思ったら カタカタカタカタ と笑って もう消えた
足元を歩いている と思ったら もうずっとむこうの 暗がりの中で 笑っている
声をかけると はじらって いってしまう
知らんふりしていると まとわりつく
小さな子供達 森の子等
ああ お前たちのいる この森は とてもゆたかなんだね
この詩から、宮崎監督はこだまのカタカタ音を「笑い声」として捉えていることが分かります。つまり、あの音は森の喜びや豊かさを表現する笑い声だったのです。
こだまのビジュアルデザインの秘密
森に何かがいるのが見えるスタッフが作り出したというエピソードがあります。宮崎駿監督とシシ神の森に同行したスタッフが「森に何かいる」と感じたことから、こだまのデザインが生まれました。
このスタッフの霊感的な体験が、あの独特な白い姿と3つの穴だけの顔というミニマルなデザインに結実したのです。まさに「見える人には見える」森の精霊の姿を視覚化したものと言えるでしょう。
森の健康状態を示すバロメーター
アシタカのセリフ「すきにさせておけば悪さはしない。森が豊かなしるしだ」という内容からも、コダマは中立な森の魂として描かれています。
こだまの存在は森の豊かさの証明であり、彼らがいなくなることは森の死を意味します。劇中でシシ神の首を奪われた後、森が枯れるとともにこだまたちも死んでいく様子が描かれていました。
森の状態 | こだまの様子 |
---|---|
豊かな森 | 多数のこだまが活発に活動 |
森の危機 | 一斉にカタカタと警告音を発する |
森の死 | こだまも死んで消える |
森の再生 | 1匹のこだまが現れる |
SNSで話題のこだまの音に関する投稿
Twitterでは多くのファンがこだまの音について様々な考察を投稿しています:
日本では古くから「木霊(こだま)」という精霊の存在が信じられ、やまびこも彼らの仕業だと言われています😆💖💖💖#金曜ロードSHOW!
この投稿からも分かるように、こだまは日本古来の木霊信仰と深く結びついた存在として描かれています。
もののけ姫、というか現実世界の宗教や神話にも言えることだけど神性が上がるにつれ対話(コミュニケーション)不可能な存在になるのだ
乙事主(話せる) ↓ こだま(表情がある) ↓ シシ神(微笑)↓ でいだらぼっち(顔が無い)
この考察は、もののけ姫の世界における神性のヒエラルキーとコミュニケーション能力の関係性を鋭く指摘しています。こだまは言葉は話せないものの、表情と動作で感情を表現できる存在として位置づけられているのです。
こだまとトトロの驚くべき関係性
宮崎監督、同インタビューでこう語っています。「それ(ラストシーンのこだま)がトトロに変化したって(笑)。耳が生えていたってことにすれば、そうすると首尾一貫するんです」
この発言は『「もののけ姫」はこうして生まれた』でのインタビューでのものですが、公式設定としてこだまとトトロの関係が明かされています。
『もののけ姫』の舞台となったのは、約700~500年前の室町時代です。一方、『となりのトトロ』は昭和30年代が舞台とされているため、時代的な整合性も取れています。
つまり、ラストシーンで生き残った1匹のこだまが長い年月をかけて成長し、耳が生えてトトロになったという壮大な時系列での関係性が存在するのです。
屋久島の木霊の森との関連
シシ神の森は屋久島の森をモデルにしているのは有名な話ですが、実は屋久島には「木霊の森」という森があるのです。その森で写真を撮ると、まさに『もののけ姫』のこだまのような白くて小さい「なにか」がたくさん映るという都市伝説もあります。
この実在する「木霊の森」の存在は、宮崎監督がこだまを創作する際の重要なインスピレーション源となったと考えられます。現実と創作の境界が曖昧になるような神秘的な体験が、あの印象的なキャラクター創造につながったのでしょう。
音響効果に込められた深い意味
ピチカート・ストリングスの音が、コダマの愛らしい姿を彷彿させ、独特な曲調が、強い存在感を発揮していると音楽評論でも指摘されています。
久石譲の楽曲「コダマ達」では、こだまの音をオーケストラで表現する際にも、弦楽器のピチカート奏法(弦を指で弾く奏法)が効果的に使われています。これにより、カスタネットの音だけでは表現しきれない、こだまたちの繊細で愛らしい存在感が音楽的に再現されているのです。
別の視点から見るこだまの音の意味
「猿の骨を叩く音」という説も存在します。この説は、ジブリのスタッフが、猿の骨を叩いてみた音をコダマの声として採用したというものです。これが事実であれば、コダマの音には、動物たちの死を乗り越えて森が生きている、という深い意味が込められている可能性もあります。
ただし、この説については公式な確認は取れておらず、あくまで推測の域を出ません。しかし、宮崎作品にしばしば見られる「死と再生」のテーマを考慮すると、興味深い仮説と言えるでしょう。
こだまの表情と感情表現
劇中のこだまたちをよく観察すると、同じような姿でありながら微妙に表情が異なることに気づきます。みんな似ているようで、少しづつ違っていて、笑っているように見えるこだまもいたりします。
特に印象的なのは、アシタカが怪我人を背負っているシーンで、こだまの一匹がアシタカの肩に乗って笑顔を見せる場面です。このシーンでは、こだまたちがただの森の装飾品ではなく、感情を持った生きた存在であることが表現されています。
おんぶされているこだまが笑っている表情をしているのもなんだか応援してくれているようで元気がでますね。この描写により、こだまたちが人間に対して基本的に友好的であることが示されています。
現代におけるこだまの象徴性
こだまの存在は、現代の環境問題に対する宮崎監督からのメッセージとも解釈できます。森を破壊することは、莫大なコダマを殺すことにもなるのだという考察があるように、森林破壊の深刻さを可視化した存在がこだまなのです。
森の健康状態を示すバロメーターとしてのこだまは、現実世界の生態系における指標生物(環境の変化に敏感で、環境の状態を知る手がかりとなる生物)の概念と重なります。ホタルや鳥類が環境の豊かさを示すように、こだまも森の豊かさの証明なのです。
こだまの音が持つ音楽的特徴
ディレイ(やまびこのような効果をもたらすエフェクト)を効かせて、音が減衰していくような終わり方になっているという音響効果の工夫も見逃せません。
この音響処理により、こだまの音は単なる楽器音を超えて、森の奥深くに響き渡る神秘的な音として表現されています。やまびこ効果は、まさに「こだま(木霊)」の語源である「音が返ってくる現象」を音響的に再現したものと言えるでしょう。
まとめ
もののけ姫のこだまが首を振って発する「カタカタ」音は、単なる効果音ではありません。木製のカスタネットで作られたその音には、森の精霊としての呼吸、仲間同士のコミュニケーション、そして存在の表示という複数の意味が込められています。
宮崎駿監督の詩的表現では「笑い声」として描かれ、森の豊かさと喜びを表現する重要な要素となっています。さらに、ラストシーンのこだまがトトロへと進化するという壮大な物語の連続性まで含んでいる、実に奥深いキャラクターなのです。
屋久島の木霊の森から着想を得て、現実と幻想の境界線上に生まれたこだまたち。彼らの「カタカタ」という音は、失われゆく自然への警鐘であり、同時に再生への希望を込めた笑い声でもあるのです。次回もののけ姫を見る際は、ぜひこだまたちの首振りと音に注目して、森の声に耳を傾けてみてください。