1997年公開のジブリ映画『もののけ姫』は、興行収入193億円を記録した日本を代表するアニメーション映画として、多くの人の心に残る名作ですね。その中でも特に印象深いのが、米良美一によって歌われる主題歌「もののけ姫」です。
宮崎駿監督が作詞し、久石譲が作曲・編曲を担当したこの楽曲は、短い歌詞の中に深い意味が込められています。今回は、この主題歌の歌詞をひらがな付きで詳しく解説し、その隠された意味を徹底的に考察していきましょう。
もののけ姫の歌詞(ひらがな付き完全版)
作詞:宮崎駿 作曲:久石譲 編曲:久石譲による主題歌「もののけ姫」の歌詞を、ひらがな付きで紹介します。
歌詞 | ひらがな |
---|---|
はりつめた弓の | はりつめたゆみの |
ふるえる弦よ | ふるえるつるよ |
月の光にざわめく | つきのひかりにざわめく |
おまえの心 | おまえのこころ |
とぎすまされた刃の美しい | とぎすまされたやいばのうつくしい |
そのきっさきによく似た | そのきっさきによくにた |
そなたの横顔 | そなたのよこがお |
悲しみと怒りにひそむ | かなしみといかりにひそむ |
まことの心を知るは | まことのこころをしるは |
森の精 | もりのせい |
もののけ達だけ | もののけたちだけ |
もののけ達だけ | もののけたちだけ |
2番の歌詞は「Uh…」「Ah…」の部分のみで、宮崎駿監督が「1番しか書けない」「ふさわしい歌詞が浮かばない」と話していたとされています。
歌詞の深い意味を徹底解説
第一連:「はりつめた弓のふるえる弦よ」の意味
歌詞の冒頭部分は、弓の名手であるアシタカらしく、弓の描写が登場します。この部分には、アシタカの内面的な葛藤が巧妙に込められています。
「はりつめた弓の ふるえる弦よ」のフレーズから、矢を射るために弦を力いっぱい引いている様子が窺えるものの、矢を放つところまで描かれていないことに注目すると「ふるえる弦」はアシタカの葛藤を比喩していると解釈できます。
アシタカは呪いによって恐ろしい力を手に入れましたが、相手の命を奪いたくないのに意に反する力を手にしたことで、弓を構えながらも本当にこの矢を放っていいのか、命を奪う覚悟はあるのかと、ためらいや恐怖に襲われている状態なのです。
第二連:「月の光にざわめくおまえの心」の意味
「おまえ」という呼称については、劇中でアシタカがサンを「おまえ」と呼ぶシーンはないため、アシタカが自分自身の心と向き合っているところとも解釈できるという見方があります。
一方で、「おまえ」はサンからアシタカに対する呼称である可能性が高く、この曲はアシタカとサンによるデュエット形式の歌と考えられるという興味深い解釈もあります。
第三連:「とぎすまされた刃の美しいそのきっさき」の表現
この部分では、サンの横顔を「とぎすまされた刃の美しいそのきっさき」に似ていると表現している点が特に印象的です。
研ぎ澄ました刃の切っ先は美しく輝く一方で、軽く触れただけで傷がつくほど切れ味が鋭くなっているように、山犬に育てられたサンは自らを山犬と思い、住み処である山を荒らす人間たちを憎んでいました。
しかし、それは自然や仲間を守りたいという強い意志によるものであり、その感情にアシタカは美しさを感じたと思われます。
第四連:「悲しみと怒りにひそむまことの心」の真意
歌詞の最後の部分は、アシタカとサンの諦念の描写として解釈できます。人間と自然、文明と野生という対立する世界に生きる二人の、<解り合えないことを解り合うこと>という複雑な関係性が表現されています。
宮崎駿の作詞に込められた制作意図
アシタカからサンへの想いを歌った楽曲
この楽曲は、アシタカからサンへの想いを綴った歌だといわれています。宮崎監督は「(この曲は)アシタカのサンへの気持ちを歌っている……呟くように、と言ったのは(アシタカの)心の中の声なので」「男の子が歌っている感じ」と、米良美一に直接指示を出したのです。
呼称の変化に込められた感情の変化
歌詞の中で「おまえ」から「そなた」への呼称の変化には、アシタカの感情の変化が込められています。「そなた」には、相手への敬意や親しみがより込められているように感じられ、出会ったばかりの時は自分のことで精一杯だったアシタカが、サンと出会ってその強い心に触れたおかげで人として成長できたことを示しているのかもしれません。
歌詞にない2番の意味と制作秘話
宮崎駿が2番の歌詞を書かなかった理由
歌詞がない理由は作詞をした宮崎駿監督が「1番しか書けない」「ふさわしい歌詞が浮かばない」と話していたそうです。それほど1番に映画『もののけ姫』の全てが詰まっているということなのでしょう。
歌詞がない2番ですが、それ故に儚さ・切なさ・言葉に表せない複雑さを感じ、「歌詞が無くて正解だ」と思わされる程『もののけ姫』の世界に入り込める一曲となっています。
米良美一の歌唱表現と制作現場でのエピソード
録音セッションでの試行錯誤
米良美一は、主題歌の録音セッションで試行錯誤を重ねながら、あのような歌唱表現に到ったのです。宮崎駿監督の当初のオーダーは〈呟くように〉。それは、歌の中の〈ドラマ〉を殺すことを意味するので、米良美一はリハーサルの段階で大いに苦労したといいます。
アシタカの視点で歌った結果
宮崎監督の指示を彼なりに解釈し、アシタカの視点で歌った結果たどり着いたのが、あの主題歌の歌唱表現、すなわち〈ドラマ〉なのです。
SNSで話題の歌詞解釈と考察
Twitter上での議論と感想
「もののけ姫の歌詞が頭から離れない。ふとした拍子にあの歌詞を思い出す。」
このようにSNSでは、もののけ姫の歌詞について深く考察する投稿が数多く見られます。特に歌詞の解釈について活発な議論が行われています。
「何度も観てるけど『もののけ姫』って感情のコントロールの芯をついた物語だったとは知らなかった。」
年齢を重ねるにつれて、作品の見方が変わったという感想も多く投稿されています。
ジブリファンの深い洞察
「『もののけ姫』を見る機会があればぜひ主題歌の歌詞にも注目してみてくださいね!」
映画を何度も見返すファンからは、歌詞に込められた意味への注目を促す投稿も見られます。
楽曲の音楽的特徴と演奏解釈
久石譲の作曲技法
久石譲のジブリ音楽の中で、民族楽器系の笛の音色と最もよく合うのは、やはり「もののけ姫」のメロディーだと評価されています。インストゥルメンタル・バージョンでは主旋律はケーナ(アンデスの民族楽器の笛)が奏でており、ゆったりとした静かめのオーケストレーションとともに、大変美しい音楽が展開されるのです。
カウンターテナーの魅力
久石譲つくり出す音楽は『もののけ姫』の世界観を見事に表現。そこに米良美一の高く澄んだカウンターテナーが合わさると、どこか人間離れした空気感があり、素敵な仕上がりとなっています。
歌詞から読み解く作品の深層テーマ
対立と共存のメッセージ
宮崎駿監督が伝えたかったテーマは、「お互いが、お互いの幸福のために、お互いが、相手の幸福を優先して、その『生』の方向性を向いた上で、お互いの目的を『お互いの生』という事を、合意したうえで、その『対立』と向き合う」ことだと考察されています。
生と死の境界線
宮崎駿監督は、もののけ姫という作品を通じて「生と死を分けている限り、この世から争いも憎しみも無くならない」ということを伝えているのではないかという深い解釈もあります。
まとめ:歌詞に込められた普遍的なメッセージ
もののけ姫の主題歌の歌詞は、短い言葉の中に驚くほど深い意味が込められています。アシタカからサンへの想いを綴った歌でありながら、同時に人間と自然、文明と野生、愛と憎しみといった対立する要素を抱えた現代社会へのメッセージでもあるのです。
歌詞に出てくる〈悲しみと怒り〉が蔓延する現在、米良美一の歌声が不条理な運命に目を背けることなく、〈まことの心を知る森の精〉のように訴えかけてくるこの楽曲は、時代を超えて愛され続ける理由がここにあるのではないでしょうか。
ひらがなで歌詞を読み返してみると、宮崎駿監督の言葉選びの巧妙さと、それを美しく歌い上げた米良美一の表現力の素晴らしさがより深く理解できます。この主題歌は、映画『もののけ姫』の核心を凝縮した、まさに珠玉の作品といえるでしょう。