もののけ姫の監督として知られる宮崎駿氏について、「この天才監督は一体どんな人物なのだろう？」「どのような思いでもののけ姫を作ったのか？」と疑問に思ったことはありませんか？確かに、宮崎駿監督の名前は世界的に有名でも、その人物像や作品への思い、創作哲学について深く知る機会は意外に少ないものです。この記事では、もののけ姫を通じて見えてくる宮崎駿監督の真の姿と、彼が作品に込めた深い思想を詳しく探っていきましょう。
もののけ姫における宮崎駿監督の役割と立ち位置
『もののけ姫』は1997年7月12日に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画で、原作・脚本・監督のすべてを宮崎駿が担当した完全なる宮崎作品です。これは単に監督としての仕事を超えて、物語の根幹から演出まで、作品のあらゆる側面に宮崎駿の思想が反映されていることを意味します。
当初、宮崎がやりたがっていた『毛虫のボロ』『東京汚穢合戦』などの制作が検討されていたが、鈴木敏夫の「宮崎駿が年齢的・体力的に、全身全霊で監督できるは今しかないだろう」という判断から、アクション大作である『もののけ姫』を制作することになったという経緯があります。
この背景は重要で、宮崎駿監督にとって『もののけ姫』は、自身の集大成的な位置づけの作品だったということです。実際に、ジブリ史上最大の製作費がかけられ、宮崎の監督引退説などが話題になったほどの大作として位置づけられていました。
宮崎駿監督が『もののけ姫』に込めた哲学と思想
現代の若者への深いメッセージ
宮崎駿監督が『もののけ姫』で最も重要視したのは、現代を生きる若者たちへのメッセージでした。監督が言う「我々が直面している最大の課題」は、主人公アシタカの設定に集約されているという。今この世の中に生きている若者は、いわれのない、不条理な、肉体的にも精神的な意味も含めてババを引いてしまった人間たちであると語っています。
この言葉からわかるように、宮崎監督は現代社会の理不尽さに直面している若者たちを深く理解し、彼らに向けて作品を作ったのです。それは東アジア、アメリカやヨーロッパ、アフリカでも共通の運命であるとして、これが日本だけの問題ではなく、世界共通の課題だと捉えていました。
歴史に対する独自の視点
宮崎監督の歴史観も非常に興味深いものです。人口が五百万人しかいなかった鎌倉時代の日本は、現代から見れば山紫水明、遥かに美しい所が多数存在したが、人間が悲惨の極みであったため、鎌倉仏教のような宗教が生まれてきたと述べています。
つまり、美しい自然環境と人間の悲惨さが同時に存在するという矛盾した状況こそが、『もののけ姫』の世界観の根底にあるのです。『風と谷のナウシカ』では、自然の脅威や人間同士の対立によってすぐさま命が奪われていくような無常の世界を、『もののけ姫』では日本の室町時代を舞台にしながら描き直しているのも、このような歴史認識があったからです。
制作現場での宮崎駿監督の姿勢と手法
完璧主義者としての一面
宮崎駿監督の制作現場での姿勢は、まさに完璧主義者そのものでした。もののけ姫では島本須美に20回以上リテイク出して、「職業上（声優）の仮面がある」と語ったというエピソードからも、その徹底ぶりがうかがえます。
また、複数のスタッフによって描かれた絵をレイヤーとして重ね、個別に緻密なスピード計算をしながら、監督の意図通りに実際にカメラで撮影していくという、各部署の連携が完璧にとれていなければ達成できない職人芸で支えられている制作現場を築いていました。
技術革新への取り組み
『もののけ姫』製作時は、ちょうどアニメーションの製作がアナログからデジタルへと本格的に移行し始めていた時期にあたり、本作では一部でCG技術を導入しつつ、透明なシートを使ってセル画に直接色をペイントしていくというセルアニメーションの技法を使用した最後のジブリアニメとなったように、宮崎監督は伝統的な手法を大切にしながらも、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢を見せていました。
| 制作要素 | 宮崎監督のこだわり | 具体的な手法 |
|---|---|---|
| セルアニメーション | 伝統技法の集大成 | 透明シートに直接ペイント |
| CG技術 | 部分的な導入 | 複雑なシーンの表現力向上 |
| 声優演技 | 自然な表現追求 | 20回以上のリテイク実施 |
| スタッフ連携 | 完璧な協調 | レイヤー重ね・スピード計算 |
世界の映画界から見た宮崎駿監督の評価
宮崎駿監督の国際的な評価は非常に高く、世界的な映画監督たちからも絶賛されています。映画監督のスティーブン・スピルバーグは日本のクリエイターについて聞かれた際、「宮崎駿さんがつくる世界には敬服します」と名指しし、「特に、『千と千尋の神隠し』は史上最高のアニメーション映画であり、ディズニーのどの作品よりも素晴らしいと思っています」と評価したのです。
さらに、映画監督のジェームズ・キャメロンは、自身の映画『アバター』の世界観が宮崎作品を彷彿させるとの意見に対し「僕はもちろん宮崎アニメのファンだ」「だから、そう言っていただいてうれしいよ」と答え、映画の中には『もののけ姫』にオマージュを捧げたシーンがあることを明かしたという事実もあります。
『もののけ姫』制作における宮崎監督の具体的なエピソード
タイトル決定の裏話
作品のタイトルに関しても興味深いエピソードがあります。宮崎さんは『アシタカせっ記』を推していましたが、鈴木さんがこっそり、金曜ロードショーで『もののけ姫』というタイトルの特報を放送して確定させちゃいましたという、プロデューサー鈴木敏夫氏との駆け引きがあったのです。
実際、『もののけ姫』では『アシタカ𦻙記』を題名にしたかったという宮崎の意に反して鈴木敏夫により『もののけ姫』で既成事実化されたといい、宮崎本人は必ずしも拘ってはいないとされています。
社会問題への真摯な取り組み
宮崎監督の社会問題への関心の深さも注目すべき点です。2016年1月28日に東京都港区で開かれた「ハンセン病の歴史を語る人類遺産世界会議」で宮崎は、「もののけ姫」の一場面でハンセン病患者を描いた経緯について、自宅から歩いて15分ほどにある全生園を訪問し、園内資料館で展示されていた脱走防止用の「園内通用券」などを見て衝撃を受け、「おろそかに生きてはいけない。作品を真正面からやらなければならない」と語ったのです。
SNSや評論家による宮崎駿監督評価の声
アニメの立ち位置を、ただファンが消費するものから、学者や批評家たちが批評するに値する「芸術」へと変える礎を築いた作品として広く認められている
この評価は、宮崎監督が単なるエンターテインメント作品を作ったのではなく、真の芸術作品を生み出したことを示しています。
最初はただ1人の頭の中にだけ存在していたキャラクターやストーリーが、多くの人の「化学変化」を経て具現化し、さまざまな魅力を内包した1本の作品として完成した後、やがて多くの人々の心を国境すら越えてとらえてしまう
引用：https://www.amazon.co.jp/「もののけ姫」はこうして生まれた。-DVD-宮崎駿/dp/B00005Q5C6
この評価からは、宮崎監督の創造力と、それを実現するスタッフとの協働の素晴らしさが伝わってきます。
宮崎駿をも知り尽くす観察力や人を動かすカリスマ性、第3者視点で作品をプロデュースできる点も評価されています
引用：https://www.amazon.co.jp/「もののけ姫」はこうして生まれた。-DVD-宮崎駿/dp/B00005Q5C6
『もののけ姫』が証明した宮崎監督の映画史的意義
1997年公開の『もののけ姫』は、興行収入193億円、観客動員数1420万人を記録し、日本の歴代興行収入記録を塗り替えた。2020年の再上映による興行収入8.8億円が加算され、正式な興行収入記録は201.8億円となったという商業的成功は、宮崎監督の才能を数字で証明したものです。
しかし、より重要なのは日本のアニメーション映画が国際的に大きな注目を浴びるきっかけとなった作品であるという文化的な影響です。宮崎監督は『もののけ姫』を通じて、日本のアニメーションを世界的な芸術表現として確立したのです。
制作現場での人材育成
宮崎監督の素晴らしさは作品だけでなく、人材育成にも現れています。宮崎駿にその才能を認められ、短編『On Your Mark』で初めて作画監督を任され、25歳で『もののけ姫』のチーフ作画監督に抜擢される安藤雅司氏のように、多くの才能あるアニメーターを見出し、育成してきました。
ただし、監督として一番欲しいのは従順で腕のいいアニメーターであり、才能ある若手の演出力とその台頭を恐れていると指摘しているという側面もあり、完璧主義者ゆえの複雑な人間性も垣間見えます。
現代から見た宮崎駿監督の先見性
宮崎駿監督が巨匠となってからの『もののけ姫』もまた、いま新たな目で見ることで、より純粋に一つの作品として鑑賞できるのではないだろうか。『風と谷のナウシカ』では、自然の脅威や人間同士の対立によってすぐさま命が奪われていくような無常の世界を、『もののけ姫』では日本の室町時代を舞台にしながら描き直しているという視点で作品を捉えると、宮崎監督の環境問題や文明批判のメッセージが、現代においてますます重要性を増していることがわかります。
宮崎監督が描いた人間と自然の対立構造は、気候変動問題が深刻化する現代社会にとって、まさに預言的な作品だったと言えるでしょう。
まとめ：宮崎駿監督という稀有な存在
善悪を簡単には言えないキャラクターがほとんどですね。それが本作の特徴のひとつだと思いますという宮崎監督自身の言葉が示すように、彼は単純な勧善懲悪ではない、複雑で深い人間性を描く監督です。
『もののけ姫』を通じて見えてくる宮崎駿監督は、現代社会への深い洞察力、完璧を追求する職人気質、世界に通用する芸術性、そして次世代への強いメッセージ性を持った、まさに稀有な存在だと言えるでしょう。
彼が『もののけ姫』に込めた「生きろ。」というメッセージは、理不尽な現実に直面する私たちにとって、今なお力強い励ましとなっています。宮崎駿監督の作品は、単なる映画を超えて、私たちの生き方そのものに深い影響を与え続けているのです。
監督としての宮崎駿氏を理解することは、『もののけ姫』という作品をより深く味わうことに繋がります。彼の哲学と創作への情熱を知った今、作品を再び鑑賞してみてはいかがでしょうか。きっと新たな発見があることでしょう。