アニメ映画史に残る衝撃的な組み合わせをご存知でしょうか?1988年4月16日に公開された「火垂るの墓」と「となりのトトロ」は、実は同時上映だったのです。現在では信じられないこの事実に、リアルタイム世代以外の多くの人が驚きを隠せません。


この組み合わせは、観客にとって忘れられない、そして時にトラウマになりかねない映画体験を生み出しました。ファンタジー映画と戦争映画という、まったく異なるテイストの作品を連続で観ることの影響は計り知れなかったのです。
【結論】同時上映は事実!観客が体験した心理的衝撃とは
「火垂るの墓」は1988年4月16日に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画で、同時上映は「となりのトトロ」でした。この驚異的な組み合わせは、当時の観客に強烈な心理的インパクトを与えました。
高畑勲監督自身も「攻めた組み合わせ」だったと認めており、2016年の上映会で「あのトトロと同時上映だったんです。どちらを先に観るかという問題。『火垂るの墓』を先に観た人はかわいそうでしたね」と語っています。
しかし、実際の観客動員数は約80万人とジブリ作品の中では比較的少数に終わり、制作側が心配したほど多くの観客がこの「地獄の体験」をしたわけではありませんでした。
項目 | データ |
---|---|
公開日 | 1988年4月16日 |
観客動員数 | 約80万人 |
興行収入 | 11.7億円 |
トトロ上映時間 | 約86分 |
火垂るの墓上映時間 | 約88分 |
なぜこの異質な組み合わせが実現したのか?
企画の経緯と大人の事情
この同時上映が実現した理由には、複雑な制作事情がありました。先に企画された「となりのトトロ」は、当初60分程度の中編映画として企画されており、単独での全国公開は難しかった状況でした。
スタジオジブリの親会社・徳間書店が「となりのトトロ」の企画を地味だと難色を示した際に、鈴木敏夫プロデューサーが「別作品との2本立て興行であれば、徳間書店幹部を説得できるのではないか」と考えて生まれたものだったのです。
さらに興味深いことに、新潮社が「火垂るの墓」を作らせる企画に、徳間書店が「となりのトトロ」と二本立てでゴリ押ししたのが発端だったとも言われています。実質的には「となりのトトロ」がおまけのような扱いだったという驚きの事実があります。
当時の映画館システムの違い
現在の観客が驚く理由の一つに、当時の映画館システムの違いがあります。当時は入れ替え制ではない映画館が主流であったため、1日中交互に上映されている映画館であれば2本の鑑賞順は観客が自由に選択することができたのです。
- 入れ替え制なし:好きな時間に入場可能
- 座席自由:好きな席に座れる
- 時間制限なし:一日中映画館にいることも可能
- 上映順選択可:どちらから観るかは観客次第
観客が体験した衝撃的なエピソードの数々
リアル体験者の証言
実際に同時上映を体験した観客の証言は、まさに衝撃の連続でした。
「『となりのトトロ』のような楽しいアニメを見ようと映画館を訪れ、楽しいトトロを見た後に『火垂るの墓』を見て、衝撃を受ける、涙が止まらない、茫然自失で席から立ち上がれない観客が続出したという」
特に印象的なのは、当時は「火垂るの墓」を見てから「トトロ」が良いよと言われていたということです。多くの観客が経験を通じて、観る順番の重要性を実感していたのです。
トラウマになった観客たち
同時上映の影響は深刻で、「となりのトトロ」を見ると「火垂るの墓」を連想してしまうので、トトロですら見れないと完全にトラウマになってしまった方もいました。
実際の体験談として、以下のような証言が残っています:
- 「火垂る→トトロ順」:暗い気分が持続し、トトロに入り込めない
- 「トトロ→火垂る順」:楽しい気分から一転、深刻なショック状態に
- 「口直し鑑賞」:火垂るの墓のショックからもう一度トトロを観る
SNSやWEB上での話題の投稿
現在でもこの同時上映に関する投稿や反応は続いており、多くの人がその衝撃的な事実に驚いています。
「何度観ても思い出す、この #となりのトトロ と火垂るの墓が二本立て同時上映という東宝のイカれた企画力。当時の映画館は入れ替え制ではなかったので、トトロ→火垂るの墓でショックを受け、口直しにもう一回トトロの最初の方(まっくろくろすけ辺り)まで観た」
「地元の映画館で二本同時上映を観た。満員だったので通路に新聞紙敷いて観ていたけど(懐かしい)、火垂るの墓が終演した直後のロビーは泣いている大人達が数人いた。大人達にとっては、ちょうど節子と同じ世代か。子供心ながらに、あの2本のギャップは強烈だった。」
「当時小学生だった私は火垂るの墓→となりのトトロの順番でした。火垂るの墓のショックをトトロで癒す形になり、上映後トトロのパンフを買って帰ることが出来ました。(火垂るの墓は今に至るまでテレビでさえも観ることが出来ません)」
制作現場での苦労話と未完成公開の真実
制作の困難と妥協
実は、「火垂るの墓」は公開時点では清太が野菜泥棒をして捕まる場面などを色の付かない白味・線撮りの状態で上映することとなったという事実があります。制作が間に合わず、未完成のまま公開せざるを得なかったのです。
当初は両作とも60分であったが、高畑の「火垂るの墓」の時間が長くなると、対抗するように宮崎の「となりのトトロ」の時間も延長し、結果的に長編2本の同時進行となったという制作競争もありました。
アニメーターの争奪戦
「となりのトトロ」と「火垂るの墓」の同時上映が決まったとき、高畑勲監督と宮崎駿監督は、天才アニメーター近藤喜文を取り合いをしており、両者譲らない鍔迫り合いの末、一時期は製作中止の危機にまで陥ったというエピソードもあります。
興行的観点から見た同時上映の評価
興行成績と評価の推移
「となりのトトロ」「火垂るの墓」の観客動員数は80万1680人、興行収入は11億7000万円でした。これは現在のジブリ作品と比較すると決して高い数字ではありませんが、後に両作品とも国民的アニメとして愛され続けることになります。
興味深いことに、「好きなジブリ作品は?」という質問では、「となりのトトロ」が17.71%で第1位を獲得しており、興行収入と人気は必ずしも一致しないことを示しています。
後世への影響
宮崎駿監督は「となりのトトロ」を「幸せな心温まる映画」として、「楽しい、清々した心で家路をたどれる映画」を目指したと公開時のパンフレットに寄稿しています。
また、両作品のパンフレットには同じキャッチコピー「忘れものを、届けにきました。」がかかっていたという事実も、この同時上映の深い意味を物語っています。
作品の深層的な関係性と対比効果
テーマの共通点と対比
「となりのトトロ」と「火垂るの墓」は一見アンバランスに見えますが、「火垂る」に負けず劣らず、「トトロ」も生死を扱った物語であり、「対」になっているという深い分析もあります。
- トトロ:ユートピア的環境での死の存在
- 火垂るの墓:死が身近な環境でのユートピア的救い
- 共通テーマ:昭和という時代、子どもたちの視点
- 対比効果:平和と戦争、希望と絶望
時代設定の意味
節子とメイはくしくも同じ歳で、節子は神戸の都会っ子だから仕方ないけれど、あの暗い洞窟じゃなくて森にいけばメイのようにトトロに出逢えたのかなぁという感想を持った観客もいました。
この2作品は、同じ昭和という時代の異なる側面を描いており、観客は平和な日本と戦争中の日本を同時に体験することになったのです。
現代の映画システムとの違いを踏まえた再考察
入れ替え制導入後の変化
現在の映画館システムでは、このような同時上映の自由度はありません。現在の二本立て映画では全席指定席で劇場に入るタイミングも決まっており、それ以外の順番や組み合わせでは見られず、二本立ての映画を見たら出て行かなければならないという状況です。
当時のシステムの特徴:
- 自由入場:好きな時間に入れる
- 自由席:空いている席を選択可能
- 滞在自由:時間制限なし
- 順番選択:どちらを先に観るか選べる
現代における同時上映の可能性
もし今「となりのトトロ」を単独で公開したら、大盛況間違いないでしょうが、このような異質な組み合わせの同時上映は現在のシステムでは実現困難です。
しかし、2012年には「『となりのトトロ』&『火垂るの墓』2本立てブルーレイ特別セット」が発売されるなど、当時の同時上映を再現しようとする試みも行われています。
【再結論】同時上映が生み出した映画史上稀有な体験
「火垂るの墓」と「となりのトトロ」の同時上映は、映画史上極めて稀有な体験でした。ファンタジー映画と戦争映画という味わいが全く違う上に、どちらもハイクオリティな作画が90分近く続く大作アニメーションの組み合わせは、確実に観客の心に深い印象を残しました。
この経験は、単なる映画鑑賞を超えて、戦争と平和、絶望と希望、現実と幻想という対極的なテーマを同時に味わうという、極めて濃密な体験でした。高畑勲監督が「かわいそう」と表現したように、特に「火垂るの墓」を先に観た観客にとっては、まさに心理的な試練だったと言えるでしょう。
しかし同時に、この組み合わせは両作品の価値をより深く理解させる効果もありました。「火垂るの墓」を観てしまえば、細かい不幸なんか気にならないほど、日常に幸せを感じる、アンテナ敏感モードに入ってしまうという証言が示すように、作品同士が相互に作用し合う貴重な体験だったのです。
まとめ
1988年の「火垂るの墓」と「となりのトトロ」の同時上映は、現在の映画ファンには想像しがたい衝撃的な組み合わせでした。当時の映画館システムの違いにより、観客は自分で観る順番を選択でき、それが体験の明暗を大きく分けることになりました。
この同時上映は、制作上の大人の事情から生まれた偶然の産物でしたが、結果として映画史に残る特異な体験を創出しました。トラウマになった観客がいる一方で、両作品の深いテーマを同時に味わえる貴重な機会でもあったのです。
現在では不可能に近いこの組み合わせですが、当時を知る人々の証言を通じて、その衝撃的な体験を追体験することができます。火垂るの墓ファンにとって、この同時上映の事実は作品理解をより深める重要な要素であり続けています。
両作品がそれぞれ国民的アニメとして愛され続けている現在、この異色の同時上映はアニメ史上最も話題性のあるエピソードの一つとして語り継がれていくことでしょう。

