火垂るの墓は本当に「ジブリじゃない」のか?結論から言うと答えはNO!
多くの人が疑問に思う「火垂るの墓はジブリじゃないの?」という問題について、結論から言えば、火垂るの墓は紛れもなくスタジオジブリ作品です。スタジオジブリ公式サイトでも正式にジブリ作品の一つとして紹介されており、高畑勲監督の指揮のもと、ジブリのスタッフが魂を込めて制作した名作に間違いありません。


しかし、なぜこのような「ジブリじゃない」という誤解が生まれるのでしょうか?その背景には、他のジブリ作品とは全く異なる制作経緯と権利関係が存在するのです。
なぜ「火垂るの墓はジブリじゃない」と言われるのか?その理由を詳しく解説
1. 著作権が新潮社にあるという特殊事情
『火垂るの墓』の著作権は、ジブリではなく、新潮社にあります。これは他のジブリ作品とは大きく異なる点です。一般的にスタジオジブリ作品の著作権は、スタジオジブリ側が保有していますが、火垂るの墓は例外なのです。
作品 | 著作権者 | 製作・出資 |
---|---|---|
となりのトトロ | スタジオジブリ | 徳間書店 |
火垂るの墓 | 新潮社 | 新潮社 |
魔女の宅急便 | スタジオジブリ | 徳間書店 |
このような権利関係の違いが、「火垂るの墓だけ扱いが違う」という印象を与え、「ジブリじゃないのでは?」という疑問につながっているのです。
2. 制作経緯が他のジブリ作品と大きく異なる
当初は『となりのトトロ』と同じく、徳間書店での製作を予定していたが、同社での猛反発を受けて、野坂の原作小説を文庫として販売している新潮社にアニメ映画化の企画が持ち込まれた結果、同社による出資及び製作となった。
火垂るの墓が生まれた背景:
- 本来は「となりのトトロ」の同時上映作品として企画された
- 徳間書店が火垂るの墓への出資を拒否
- 新潮社が初のメディアミックス事業として参画
- 新潮社にとって初めての映像制作参加作品となった
3. DVD・ビデオの発売元も異なっていた
ビデオやレーザーディスクは徳間系列ではないパイオニアLDCから発売され、その後リリースされたDVDも、ジブリ作品としては例外的にワーナー・ホーム・ビデオの扱いとなっていた。
他のジブリ作品が徳間系列から発売される中、火垂るの墓だけは全く異なる流通ルートで販売されていたため、ファンの間でも「なんか火垂るの墓だけ違う?」という印象を持たれることになったのです。
火垂るの墓の特殊な制作背景を具体例で解説
徳間書店が出資を拒否した理由
なぜ徳間書店は火垂るの墓への出資を拒んだのでしょうか?
その理由は、火垂るの墓が持つ重く暗いテーマにありました。戦争孤児の悲劇を描いた作品は、明るく楽しい作品を求める当時の市場において、商業的に成功が見込めないと判断されたのです。
しかし、宮崎駿監督の「となりのトトロ」を単独で全国公開するには上映時間が不足していたため、同時上映作品が必要でした。そこで、
- 原作の版権を持つ新潮社が製作を担当
- スタジオジブリが制作を担当
- 東宝が配給を担当
という、異例の分業体制が組まれることになったのです。
新潮社vs徳間書店の出版社対抗戦
当時、原作小説を出版していたのは新潮社。スタジオジブリの親会社である徳間書店とはライバル関係でした。そんな状況下もあり、『火垂るの墓』と『となりのトトロ』の同時上映は新潮社と徳間書店による異例の合同企画となりました。
この出版界の巨人同士のタッグは、映画界でも珍しい出来事でした。通常、競合他社同士が同一の映画プロジェクトで協力することはほとんどありません。
高畑勲監督の想いと制作への情熱
このような複雑な背景がありながらも、高畑勲監督は妥協することなく作品制作に取り組みました。
公開が間に合わないという話になった際、高畑は同様に未完成版を公開したポール・グリモーの『王と鳥』(『やぶにらみの暴君』)のように未完成になった経緯の説明を冒頭に付けて公開する提案をしていたほど、作品の完成度にこだわった監督でした。
結果として、一部のシーンが未完成のまま公開されることになりましたが、それでも観客には演出効果として受け入れられ、作品の評価を下げることはありませんでした。
SNSでの話題投稿と専門家の意見
火垂るの墓がジブリ作品一覧から外されることがあるのは、権利関係が複雑だから。でも制作はちゃんとジブリのスタッフがやってるんだよね。高畑監督の名作には変わりない。
この投稿は、多くのジブリファンが感じている混乱を的確に表現しています。権利関係は複雑でも、作品自体のクオリティには全く影響していないということを理解している声です。
Netflixで火垂るの墓だけ配信されてるのを見て「あれ?ジブリじゃないの?」って思った人多そう。実際はジブリ作品なんだけど、著作権が新潮社だから配信の判断も違うんだよね。
この指摘は非常に重要です。『火垂るの墓』だけは2025年7月、Netflix(日本)でも配信が解禁されましたことで、さらに「ジブリじゃないのでは?」という疑問が広がったのです。
映画評論家として言わせてもらうと、火垂るの墓がジブリ作品かどうかという議論は本質的ではない。重要なのは、この作品が高畑勲という天才監督によって生み出された不朽の名作だということだ。
専門家からの視点として、レーベルや権利関係よりも作品の芸術性を重視する声もあります。
制作秘話を知ると、火垂るの墓がいかに特別な作品かが分かる。徳間書店が出資を拒否したおかげで、新潮社という文学に造詣の深い出版社が関わることになった。これが作品の文学性を高めたのかもしれない。
この観点は興味深く、出資者の違いが作品の性格にも影響を与えたという分析です。
高畑勲監督の遺した言葉を読み返すと、火垂るの墓は反戦映画ではなく、戦争の中で生きた人々の物語だと語っていた。ジブリかどうかより、この監督の想いを理解することが大切。
監督自身の想いに焦点を当てた投稿で、作品の本質を考えさせられる内容です。
別の角度から見る「火垂るの墓はジブリ」である証拠
スタジオジブリ公式サイトでの扱い
スタジオジブリの作品。君たちはどう生きるか、アーヤと魔女、風の谷のナウシカ、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、火垂るの墓、魔女の宅急便、おもひでぽろぽろと、公式サイトでもちゃんとジブリ作品として紹介されています。
これ以上確実な証拠はないでしょう。スタジオジブリ自身が「火垂るの墓はジブリ作品」と認めているのですから。
制作スタッフは完全にジブリメンバー
火垂るの墓の主要制作スタッフを見てみましょう:
役職 | 担当者 | 他のジブリ作品での実績 |
---|---|---|
監督 | 高畑勲 | おもひでぽろぽろ、かぐや姫の物語 |
キャラクターデザイン・作画監督 | 近藤喜文 | 耳をすませば(監督)、もののけ姫 |
美術監督 | 山本二三 | 天空の城ラピュタ、もののけ姫 |
色彩設計 | 保田道世 | 風の谷のナウシカ、となりのトトロ |
このように、火垂るの墓は完全にジブリの中核スタッフによって制作された作品なのです。制作現場は間違いなく「ジブリ」そのものでした。
「となりのトトロ」との同時上映という奇跡
本作は、1988年(昭和63年)の公開時、宮崎駿監督作品『となりのトトロ』と同時上映されているが、先に企画された『となりのトトロ』は、当初、60分程度の中編映画として企画されており、単独での全国公開は難しかった。
この同時上映は映画史に残る伝説的な出来事でした。
同時上映の意義:
- 明るいファンタジーと重いドラマという対照的な作品の組み合わせ
- 宮崎駿と高畑勲、ジブリ二大巨匠の競演
- 家族向けと大人向け、両方の観客層にアピール
- 日本アニメ映画の多様性を示した画期的な企画
『となりのトトロ』のような楽しいアニメを見ようと映画館を訪れ、楽しいトトロを見た後に『火垂るの墓』を見て、衝撃を受ける、涙が止まらない、茫然自失で席から立ち上がれない観客が続出したというというエピソードからも、この企画のインパクトの大きさが伝わってきます。
現代におけるメディア配信での特殊事情
Netflix配信で浮き彫りになった権利問題
2025年7月、日本でもNetflixでの配信が開始された火垂るの墓ですが、これも権利関係の特殊性を物語っています。
他のジブリ作品との配信状況の違い:
- 海外:ジブリ作品全般がNetflixで配信中(日本を除く)
- 日本:火垂るの墓のみNetflixで配信解禁
- 理由:著作権が新潮社にあるため、配信判断も独立して行える
これが「火垂るの墓だけジブリと違う扱い」という印象をさらに強めることになったのです。
テレビ放送での扱いの変化
「火垂るの墓」が初めてテレビ放送されたのは映画公開の翌年、1989年でした。当時の視聴率はなんと20.9%!そこから2〜3年おきに終戦日前後に放送されており、2001年には21.5%を記録し、大きな注目を集めていた。
しかし、2018年を最後に地上波放送が途絶え、これも「放送禁止」「ジブリじゃないから扱いが違う」という憶測を呼ぶことになりました。
実際の放送されない理由:
- 視聴率の低下(2007年以降7-9%台)
- 重いテーマが現代の視聴者層に合わない
- 子供向けの時間帯での放送が困難
- 広告スポンサーがつきにくい内容
これらは「ジブリかどうか」とは全く関係のない、純粋にテレビ番組としての商業的判断なのです。
野坂昭如原作者の想いと高畑勲監督の演出哲学
原作に込められた贖罪の想い
野坂は、まだ生活に余裕があった時期に病気で亡くなった上の妹には、兄としてそれなりの愛情を注いでいたものの、家や家族を失い、自分が面倒を見なくてはならなくなった下の妹のことはどちらかといえば疎ましく感じていたことを認めておりいました。
野坂昭如の実体験:
- 実際に妹を亡くした戦争体験者
- 当時は妹を十分にかわいがれなかった自責の念
- 小説「火垂るの墓」は妹への贖罪として書かれた
- 「節子」という名前は養母と初恋の女性の名前
ぼくはあんなにやさしくはなかったという野坂の言葉からも、この作品に込められた深い想いが伝わってきます。
高畑勲監督の演出へのこだわり
高畑監督は原作の持つ文学性を映像で表現することに全力を注ぎました。
高畑勲の演出特徴:
- リアリズムに徹底的にこだわった作画
- 当時の生活用品や風景の完全再現
- 子役声優の自然な演技指導
- 音響効果による臨場感の演出
これらの要素が組み合わさることで、単なるアニメーションを超えた芸術作品が誕生したのです。
まとめ:火垂るの墓は間違いなくジブリ作品です
様々な角度から検証した結果、「火垂るの墓はジブリじゃない」という認識は完全に間違いであることが明らかになりました。
火垂るの墓がジブリ作品である確固たる証拠:
- スタジオジブリ公式サイトで正式にジブリ作品として紹介
- 高畑勲監督をはじめとするジブリスタッフが制作
- ジブリの制作技術と芸術性が結集された名作
- 宮崎駿監督の「となりのトトロ」と同時上映された歴史
権利関係や配信・放送での扱いが特殊なのは事実ですが、それは制作経緯の特殊性によるものであり、作品の本質的な価値や「ジブリ性」とは全く関係ありません。
むしろ、このような複雑な背景を持ちながらも世に送り出された「火垂るの墓」は、ジブリ史上最も特別な作品の一つと言えるでしょう。戦争の悲惨さを描きながらも、人間の愛情と尊厳を失わない兄妹の姿は、時代を超えて多くの人の心を打ち続けています。
「火垂るの墓はジブリじゃない」という誤解が解けたなら、今度はぜひ作品そのものの素晴らしさに目を向けてください。高畑勲監督が命をかけて作り上げたこの名作は、間違いなくスタジオジブリの誇る傑作の一つなのです。

