「日本資本主義の父」として知られ、500もの会社設立に関わった偉大な実業家・渋沢栄一。彼が残した数々の名言は、現代を生きる私たちにとっても非常に価値のある指針となっています。
2024年から新一万円札の肖像にもなった渋沢栄一の言葉には、「論語と算盤」の理念に基づいた深い人生哲学と経営思想が込められています。今回は、そんな彼の名言を厳選してランキング形式でご紹介します。
渋沢栄一の名言ランキングTOP10
多くの書籍や研究を通じて選び抜いた、渋沢栄一の代表的な名言をランキング形式で発表します。どの言葉も現代のビジネスパーソンや人生に迷う人々にとって、大きな指針となることでしょう。
順位 | 名言 | 出典 | テーマ |
---|---|---|---|
1位 | 論語とソロバンというかけ離れたものを一つにするという事が最も重要なのだ | 論語と算盤 | 経営哲学 |
2位 | 夢なき者は理想なし 理想なき者は信念なし 信念なき者は計画なし | 夢七訓 | 人生哲学 |
3位 | すべて世の中のことは、もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である | 渋沢栄一訓言集 | 向上心 |
4位 | 四十、五十は洟垂れ小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ | 渋沢栄一訓言集 | 生涯現役 |
5位 | 一人ひとりに天の使命があり、その天命を楽しんで生きることが処世上の第一要件である | 論語と算盤 | 使命感 |
6位 | できるだけ多くの人にできるだけ多くの幸福を与えるように行動するのが我々の義務である | 渋沢栄一訓言集 | 社会貢献 |
7位 | 事業には信用が第一である。世間の信用を得るには世間を信用することだ | 論語と算盤 | 信頼関係 |
8位 | 人は全て自主独立すべきものである。自立の精神は人への思いやりと共に人生の根本を成すものである | 論語と算盤 | 自立精神 |
9位 | 成功や失敗のごときは、ただ丹精した人の身に残る糟粕のようなものである | 論語と算盤 | 努力の価値 |
10位 | 金儲けを品の悪いことのように考えるのは根本的に間違っている | 論語と算盤 | 富の意義 |
なぜこの結果になったのか?渋沢栄一の名言が愛される理由
渋沢栄一の名言が現代でも多くの人に愛され続けている理由は、道徳と経済を両立させるという彼独自の思想にあります。
第1位の「論語とソロバンを一つにする」という言葉は、まさに渋沢栄一の代名詞とも言える思想を端的に表現したものです。「論語」は道徳・倫理を、「ソロバン」は経済・利益を象徴しており、この一見相反するものを統合することこそが、真の成功につながると説いています。
また、2位の「夢七訓」は現代の自己啓発書にも通じる内容で、目標設定から実行までの重要性を体系的に示しています。渋沢栄一自身が武士から実業家へと大きく人生を転換させた経験から生まれた、実践的な人生訓なのです。
各名言の深堀り解説
1位:論語とソロバンの統合思想
「論語とソロバンというかけ離れたものを一つにするという事が最も重要なのだ」
この名言は渋沢栄一の核心的思想を表現した代表的な言葉です。江戸時代まで、商業は「士農工商」の身分制度の最下位に置かれ、利益を追求することは卑しいものとされていました。
しかし渋沢は、道徳的に正しい方法で利益を追求することは、むしろ社会のためになると考えました。彼は実際に、第一国立銀行をはじめとする多くの企業において、この理念を実践し、日本の近代化に大きく貢献したのです。
現代のCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じる、先見性のある思想と言えるでしょう。
2位:夢から始まる成功の法則
「夢なき者は理想なし 理想なき者は信念なし 信念なき者は計画なし 計画なき者は実行なし 実行なき者は成果なし 成果なき者は幸福なし ゆえに幸福を求むる者は夢なかるべからず」
「夢七訓」として知られるこの名言は、成功への道筋を論理的に示した画期的な教えです。現代の目標達成理論やコーチング手法にも共通する内容が、明治時代に既に体系化されていたことは驚くべきことです。
渋沢自身も、農民の子でありながら「日本を富国強兵にしたい」という大きな夢を抱き、それを実現するために実業界に飛び込みました。この経験に基づいた実践的な成功法則なのです。
3位:現状に満足することの危険性
「すべて世の中のことは、もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である」
この言葉は、91歳まで生きて最後まで活動し続けた渋沢の人生哲学を表しています。彼は常に「今よりも良い状態を目指す」という向上心を持ち続けました。
現代では、企業の成長戦略や個人のキャリア開発において、この考え方はますます重要になっています。デジタル化が進む現代社会では、現状維持は相対的な後退を意味するからです。
4位:生涯現役の精神
「四十、五十は洟垂れ小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ」
人生100年時代と言われる現代に、極めて示唆に富む言葉です。渋沢は実際に91歳まで精力的に活動し続けました。この考え方は、年齢に関係なく学び続け、社会に貢献し続けることの重要性を教えています。
現代の高齢化社会において、シニア世代の活用や生涯学習の重要性が叫ばれていますが、渋沢は100年以上前からこの価値観を実践していたのです。
5位:天命を楽しむ生き方
「一人ひとりに天の使命があり、その天命を楽しんで生きることが処世上の第一要件である」
この言葉は、単に義務感で働くのではなく、自分の使命を見つけて楽しみながら取り組むことの重要性を説いています。渋沢自身も、日本の近代化という大きな使命に生涯をかけて取り組み、それを心から楽しんでいたと思われます。
現代の「やりがい」や「パーパス(存在意義)」といった概念にも通じる考え方で、働き方改革が進む現代にこそ必要な視点です。
6位:最大多数の最大幸福
「できるだけ多くの人にできるだけ多くの幸福を与えるように行動するのが我々の義務である」
功利主義哲学者ベンサムの「最大多数の最大幸福」に通じる考え方を、渋沢は実業の世界で実践しました。個人の利益だけでなく、社会全体の幸福を考えた経営を行うことで、持続的な成長を実現しました。
現代のステークホルダー資本主義や、ESG投資の考え方にも直結する先見性のある思想です。
7位:相互信頼の経営
「事業には信用が第一である。世間の信用を得るには世間を信用することだ」
この言葉は、信頼関係の相互性を端的に表現した名言です。信頼は一方通行では成り立たず、まず自分から相手を信頼することが重要だと説いています。
現代のビジネスにおいても、顧客との信頼関係、従業員との信頼関係、取引先との信頼関係がすべての基盤となっており、この考え方は時代を超えて価値のある教えです。
8位:自立と思いやりの両立
「人は全て自主独立すべきものである。自立の精神は人への思いやりと共に人生の根本を成すものである」
一見すると矛盾するように見える「自立」と「思いやり」を両立させることの重要性を説いた深い言葉です。真の自立は、他者への依存ではなく、他者との協力を可能にすると渋沢は考えていました。
現代の多様性社会において、個人の自立性を保ちながら協調性も発揮することが求められており、極めて現代的な価値観と言えます。
9位:努力こそが真の価値
「成功や失敗のごときは、ただ丹精した人の身に残る糟粕のようなものである」
結果よりも過程を重視する、深い人生哲学を表した言葉です。「糟粕」とは酒かすのことで、努力という本質的価値に比べれば、成功や失敗は副産物に過ぎないという意味です。
現代の成果主義社会において、この考え方は非常に重要な示唆を与えてくれます。短期的な成果に一喜一憂するのではなく、継続的な努力に価値を見出すことの重要性を教えています。
10位:品格ある富の追求
「金儲けを品の悪いことのように考えるのは根本的に間違っている。しかし儲けることに熱中しすぎると、品が悪くなるのも確かである」
この言葉は、富の追求と品格の両立という難しいバランスについて述べたものです。お金を稼ぐこと自体は悪いことではないが、その方法や動機が重要だと説いています。
現代においても、企業の不正行為や過度な利益追求が問題となることがありますが、渋沢の考え方は時代を超えて通用する価値ある教えです。
渋沢栄一という人物について
これらの名言を生み出した渋沢栄一とは、どのような人物だったのでしょうか。彼の生涯と人物像を詳しく見ていきましょう。
生い立ちと青年期
渋沢栄一は1840年(天保11年)、現在の埼玉県深谷市で農家の長男として生まれました。父の市郎右衛門は勤勉で教育熱心な人物で、栄一も幼い頃から学問と商売の両方を学びました。
家業は藍玉(藍染めの原料)の製造・販売で、栄一は幼い頃から商売の実務を手伝いながら、同時に漢学や剣術も習得。この多面的な教育が、後の「論語と算盤」の思想の基盤となったのです。
尊王攘夷から実業界へ
青年期の栄一は尊王攘夷思想に傾倒し、高崎城乗っ取り計画にまで参加しようとしました。しかし、従兄弟の説得により計画を断念し、その後は一橋家に仕えることになります。
1867年、パリ万博の際に徳川昭武(後の水戸藩主)の随員としてヨーロッパに渡航。ここで西欧の近代的な株式会社制度や銀行制度を学び、帰国後の実業界での活動の基礎を築きました。
明治政府での活動
明治維新後、栄一は新政府の大蔵省に入省。初代紙幣頭(紙幣局長)として、日本初の紙幣発行や度量衡の統一などに携わりました。しかし、官僚としての限界を感じた栄一は、33歳で官界を去り、実業界に転身します。
この決断について、当時の人々からは「金儲けのために官職を捨てるとは何事か」と批判されましたが、栄一は「民間の力で国を発展させる」という強い信念を持っていました。
「日本資本主義の父」としての功績
実業界に転身した栄一は、まず第一国立銀行(現みずほ銀行)を設立。その後、約500社の企業設立・経営に関わりました。主要な設立企業には以下があります:
- 東京証券取引所
- 東京海上保険会社(現東京海上日動)
- 王子製紙(現王子ホールディングス)
- 日本鉄道(現JR東日本の前身の一つ)
- 帝国ホテル
- キリンビール
- サッポロビール
これらの企業は現在でも日本経済の中核を担っており、渋沢の先見性と実行力の高さが伺えます。
社会事業への貢献
栄一は企業経営だけでなく、約600の社会事業にも関わりました。教育分野では一橋大学、日本女子大学などの設立に関与し、社会福祉分野では日本赤十字社、聖路加国際病院などの発展に尽力しました。
また、国際親善にも力を注ぎ、日米関係の改善や国際平和への貢献により、ノーベル平和賞候補にも2回ノミネートされています。
渋沢栄一の人格と特徴
学習意欲と適応力
渋沢の最大の特徴は、生涯にわたる学習意欲でした。農民から武士、官僚、実業家へと身分や職業を変えながらも、常に新しい知識と技術を吸収し続けました。特にヨーロッパ視察では、西欧の進んだ制度を日本に適用する方法を真剣に学びました。
バランス感覚
「論語と算盤」の思想が示すように、栄一は相反するものを統合する優れたバランス感覚を持っていました。道徳と経済、個人と社会、伝統と革新など、様々な対立軸を統合し、新しい価値を創造することに長けていました。
長期的視野
目先の利益にとらわれず、長期的な視野で物事を判断する能力も栄一の特徴でした。企業経営においても、短期的な利益よりも持続可能な成長を重視し、社会全体の発展を常に考慮していました。
実践主義
理論だけでなく、必ず実践に移すことを重視しました。「経験こそ学問の母」という言葉が示すように、机上の空論ではなく、実際に行動し、結果を出すことにこだわりました。
現代への影響と継承
渋沢栄一の思想と実践は、現代の日本企業文化や経営思想に大きな影響を与え続けています。
現代企業への影響
渋沢が設立・関与した企業の多くは、現在でも日本を代表する企業として活動しています。これらの企業には、長期的視野に立った経営や社会貢献を重視する文化が根付いており、渋沢の思想が受け継がれています。
また、現代の日本企業が重視する「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)の考え方は、渋沢の「道徳と経済の合一」思想に通じるものがあります。
経営学者からの評価
世界的な経営学者ピーター・ドラッカーは、渋沢栄一について次のように評価しています:
「率直にいって私は、経営の『社会的責任』について論じた歴史的人物の中で、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の一人である渋沢栄一の右に出るものを知らない」
この評価からも分かるように、渋沢の思想は国際的にも高く評価されており、現代の経営学においても重要な位置を占めています。
現代のビジネスリーダーへの影響
多くの現代のビジネスリーダーが渋沢栄一の思想に影響を受けています。例えば:
- 稲盛和夫(京セラ創業者):「論語と算盤」を座右の書として挙げ、渋沢の思想を現代に継承
- 孫正義(ソフトバンク創業者):渋沢の長期的視野と社会貢献の思想に共鳴
- 栗山英樹(元日本ハムファイターズ監督):大谷翔平選手に「論語と算盤」を推薦
まとめ:渋沢栄一の名言が教える現代への教訓
渋沢栄一の名言ランキングを通じて見えてきたのは、時代を超えて通用する普遍的な価値観の重要性です。
第1位の「論語と算盤の統合」は、現代のESG経営やサステナビリティの考え方に直結し、第2位の「夢七訓」は現代の目標達成理論の先駆けとなっています。その他の名言も、AI時代を迎える現代社会において、ますます重要性を増しています。
特に注目すべきは、渋沢が「利益追求」と「社会貢献」を対立するものではなく、統合すべきものとして捉えていたことです。これは、現代の企業が直面している課題でもあり、渋沢の思想から学ぶべき点は非常に多いと言えるでしょう。
「満足は衰退の第一歩」という言葉が示すように、現状に安住することなく、常に向上心を持ち続けることが重要です。また、「生涯現役」の精神は、人生100年時代を迎えた現代にこそ必要な考え方でしょう。
最後に、渋沢栄一の名言から学ぶべき最も重要な教訓は、「個人の成功と社会の発展を両立させる」ことの重要性です。自分だけでなく、周りの人々や社会全体の幸福を考えながら行動することで、真の成功と充実感を得ることができるのです。
渋沢栄一の言葉は、単なる過去の遺産ではありません。変化の激しい現代社会を生き抜くための、実践的で価値ある指針として、私たちの心に響き続けているのです。ぜひこれらの名言を日々の生活や仕事に活かし、より良い人生と社会の実現を目指していただければと思います。